第14話 小さな報酬

 黒大蛇を討伐したソリト達は村に戻った。


「この度はありがとうございます!」

「それより、報酬だ」

「直球ですね、ソリトさん」

「いえ、ソリト様と聖女様は村の恩人です。ですが、数日お待ちいただけませんか。今金銭を集めているところでして」

「金はいい」

「ですが…」

「死んだ村の奴の葬儀にでも使え」


 村中から集めて受け取った金を目の前の村長は良しとしても、他の村連中に因縁なんて付けられでもしたら困る。

 それこそ、村に来た冒険者などに金を巻き上げられたなんて言われ、悪評でも付けられるなんてソリトにはたまったものではない。


「ソリト様は今は旅を?」


 方針としては魔族領へは一応目指すという形。【孤高の勇者】を極めるというのであれば各地を回る事になるだろう。

 現状、ソリトはその旅の途中で間違いないだろう。


「でしたら、プルトの街に村の者が店を出していまして。役立つ物を見繕ってくれるように書状を作成するのはどうでしょうか?」


 ソリトの懐は大幅に減り寂しくなりつつある。

 この辺りではステータス強化も既に芳しくなりつつもあるので、ある程度稼いだら出立する方が良い。

 ならば、出立するまでの間に必要なものも出てくるだろう。村長の話は悪い話ではない。


「分かった。その案を受け取らせてもらう。聖女はどうする?」

「私は別に何もやったい!」

「そんなに嬉しいのか?」

「ソリトさんが指で私の額を弾いたせいじゃないですかぁ」


 苦痛の表情を浮かべながらルティアは額を手で押さえて弱々しくツッコミ返す。


「俺に恩を返すと言っておきながら、自分は他人からの恩は受け取らないのか」

 

 痛いところを突かれたというようにルティアは黙り込み、少し後に素直に受けとることを決めた。

 更に村長は馬車を譲ってくれるらしい。


 しかし、馬車を引く肝心の馬がいない。ただ、これに関しては何処から調達するしかない。


 問題は、金が貯まるまでに用意出来るかだ。報酬を無効にする懸念はあるが、今回の件は村から犠牲が出ていることもある。反故にする可能性は低いだろう。


 それから、村長がお節介にも村の連中に黒大蛇が討伐されたことを解決したソリトとルティアは村人全員から感謝と歓迎をされた。


「お兄ちゃんこれあげる」


 途中で女の子がソリトに多彩な花束を渡そうと目一杯腕をあげる。手の大きさに合った小さい花束だ。

 ソリトは女の子からその花束を受け取りニコッと微笑んだ。


「ありがとな」

「うん!」


 女の子は母親の元に走っていく。

 その時、一部始終を見ていたのか、ソリトがお礼を言った瞬間ルティアが「ふぅ〜ん」と意味ありげに声を漏らす。

 そして、女の子が母親と共に離れてから、ソリトに話し掛けてきた。


「子どもには優しいんですね」

「子どもはどういう方面でも素直だからな。ま、一定の歳の子どもに限るが」


 ソリトの言葉にルティアが訝しげな表情をする。


「………あの、ソリトさん。間違っていたらすいません。……何故、何故人を信じないのですか?」


 良く人を見ている、いや見てきたと言った方が正しいだろうか。

 人を避ける程度ならともかく信用していない事を見抜いた事をソリトは称賛した。だが、


「教える理由がない」

「………あなたに一体何があったのですか?」


 イヤなことを思い出させる。ソリトの機嫌が嫌なものに変わる。

 この場を離れて村宿を探す前に一言言っておこうと不機嫌さを露にした表情で睨みつけてから口を開く。

 その時、ルティアはビクッと縮こまった。


「知りたいなら教会の人間でも何でも使って調べてみろよ」


 判明するはずもない。それにもし判明したとして何だというのだ。他国の勇者と女達があれこれやっていただけの話だという話に収まるに決まっている。

 考えるだけで胸くそ悪い気分になっていく。そのままソリトは村を抜けて、戻ってきたばかりの森へと向かって歩いていく。

 ルティアは話すつもりがないことを察してか、聞いてくることも付いてくることもなかった。



 森に入るとマシュマッシュがやって来た。

 聖剣を抜く。目の前にやって来た瞬間、ソリトはマシュマッシュを一刀両断した。

 更に憂さ晴らしと一目見て分かるほどに両断されたマシュマッシュを斬り刻んでいく。

 もう一体やって来たがそれも同じように斬り裂き、刻む。

 暫くして溜飲が少し下がった。

 それから、ソリトは薬草採取をしながらマシュマッシュを討伐していった。

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