第11話 村の悩み

すいません、遅くなりました。

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『ロックロックを討伐により全能力が上昇します』

『グリーンワームを討伐により全能力が上昇します』

『ブラウンワームを討伐により全能力が上昇します』

『バイホーンウササンを討伐により全能力が上昇します』

『スキル【初級火魔法使師】獲得』


【初級火魔法師】

 初級の火魔法の詠唱を省略できる。(一段階アップ状態)

 初級の火魔法の威力が一割上昇、範囲拡大する。

 スキル効果により初級の火魔法を無詠唱で発動できる。威力が二割上昇する。



 薬屋の薦めでソリトは街道を西に歩いた先にある村へとやって来た。

 村名はカールトン。宿が一つしかない小さな村だが、商人が二日立ち寄って一日滞在するらしい。


 話を聞けば、商人は明日来るらしく、採取した後はこの村を拠点にソリトも今日は滞在することにした。


 それから、薬草採取に行こうと村の奥の森に向かっている時だった。


「何故いる」

「出会って開口一番がそれなんですか!?」

「お前も開口一番にキレあるツッコミをどうも」


 ソリトは村の中でルティアを見つけてしまった。

 視線を落とすと子どもが五人いた。どうやら、ルティアは村の子ども達と戯れていたようだ。


 何故いるのかと反射的に口にしてしまったが、自分には関係ないし、興味もないのでこれ以上は聞く事はしなかった。

 そもそも、聖女は各地を回っているのだからこの村にいても可笑しくない事だ。


 ソリトはそのままルティアを素通りし、森へ向かって歩く。

 だが、後ろからぐっと引っ張られた。はね除けようと思ったが、ここに来る前の言動が思い浮かび思い留まった。


 ゆっくりと振り返ると誰もいなかった。

 だが、ソリトにはまだ引っ張られている感覚があった。

 視線を下に落としてみると、村の幼い少女がソリトのズボンをちょこんと摘まんでいた。


「もりにいっちゃぁメだよ」

「……何でだ」


 ゆっくり村の女の子の方に振り返り、同じ目線になるよう屈んで何故かと尋ねると「いまもりこわいんだよぉ」と少女は言った。


 言葉をそのまま捉え、考えれば森で何かあったという事なのだろう。

 しかし、ソリトとしては、自身を強化できるかもしれない機会。

 行くことに躊躇いはない。

 だが、何が起こって現状不明な以上、安易に行くのは危険だと判断し、一旦情報収集に回る事にした。

 ソリトは注意しくれた村の幼い少女と再度目線を合わせる。


「そうか。なあ、ここの村長はどこいるか分かるか?」

「そんちょーはあのいえだよぉ」


 指差す方向に他の家とより少し大きい家が建っていた。

 ソリトは村の女の子にお礼を言って、村長の家へ向かう。

 それはいいのだが、


「何でお前が付いてくるんだ」

「村に来た時に偶然聞いて、元々私も行く予定でしたので」

「そうか」

「そうです」


 二回だけの会話と言い難い親近感の湧きそうなルティアの口調。後ろから聞こえるその声は僅かに不機嫌さが混じっている。ただ、何故だかソリトは少しだけ違和感を覚えた。


「あの」

「何だ?」

「朝は……すいませんでした」


 そこで違和感の正体がはっきりした。

 ソリトは足を止めてルティアの方に振り返る。


「お前が、謝る事じゃない」

「でも、そうさせてしまう理由が私にあったということですよね」


 理由になったのは間違いない。

 だが、あの時の対応はソリトの精神的問題だ。

 ファル達に対しての憎悪が、主に女性全般に対しての憎悪に及ぶほどの精神的問題が、人間に対しての不信がさせたのだ。

 唯に、引き止めようとしたルティアに非はない。


「お前は悪くない。……すまなかった」


 誰も信じていないとはいえ、やり過ぎたとソリトも感じている。

 改めてソリトはルティアに頭を下げて謝罪した。


「あの……それなら!名前、名前を教えてくれませんか?」

「……は?」


 突然、何を言うんだと訳がわからず、思わずソリトは聞き返してしまった。

 その疑問にルティアが説明し始めた。


「貴方は私の名前を知ってる。私は貴方の名前を知らない。なので教えてくれませんか?」

「謝罪代わりにってことか?」

「貴方がそれでいいのでしたら」


 つまり、受けるか受けないかはソリト次第という事だろう。

 回りくどいとも思うが、ソリト自身教えるつもりはなかったし、今後何処かでまた出会ったとしても教える気など更々無かった。

 それをルティアは気が付いたもしれない。

 だから、このチャンスを使い聞こうとしているのだろう。


 街での件に非があるのは自分だとソリトは反省している。

 断る理由は何処にも無い。

 だが、簡単に教えるつもりはない。


「分かった」

「ありがとうございます。それで名前は?」


 何故だかルティアが今か今かと体を少し前のめりにして待っている。


「俺の名前はモブだ」

「そうですか。それで本当の名前は?」


 その表情に先程の笑顔はなく、細目でじーっと不機嫌にソリトを見る。

 そんなルティアを見て、フッと微笑してソリトは再度答える。


「冗談だ、名前はザコだ」

「ザコさんいつか紹介してください!それで名前は?」


 最早、目が笑っていなかった。

 その圧に憶さないソリトは偽名紹介という名の冗談を続けてやろうと思った。

 だが、流石に目が笑ってないとなると、次は何をしてくるか分からないので、ソリトはここで止めることにした。


「はぁ、ソリトだ」

「ソリトさんですね」

「何でこの名前だけ受け入れんだよ」

「だって、前の二つ明らかに偽名じゃないですか!……それに最後は諦めたように言いましたし」


 逆にそれでわかる方が謎である。

 本当はこの聖女、【天秤の聖女】ではないかという可能性と疑念を抱いてしまっても可笑しくないのではないだろうか。


 今思えば、【癒しの聖女】なら掴まれた痣だって、ソリトが治さなくても自分で治せた筈。

 しかし、今回は違う。


 とにかく、今は村長に話を聞く用がある。ルティアに構ってる時ではない。


「俺は行く」

「もう、また!待ってください!」


 それから村長の住むという大きい家に着いた。

 扉をノックして少してから、弱々しそうな中年の男性が出てきた。


「あの、どなたで?」

「あんたが村長か?」

「あ、はい。私に何か?」

「森について知りたい」

「もしかして、冒険者の方で!?」


 興奮気味に尋ねてきた村長の言葉にソリトはハッキリと否定する。

 すると、先程の興奮が嘘だったかのように村長は落ち込み始めた。

 極端だな、とソリトは内心思った。

 その時、村長が後ろにいたルティアにチラッと視線を移した。


「…あの、後ろの方は」

「こいつは赤の他人だ」

「言い方!言い方をもう少し柔和にしてください」

「話を聞きに来た、ただの他人だ」

「何も変わってない!」


 注文の多い聖女だ、なんて言えばまたツッコミが来ること間違い無い。

 とはいえ、本当の事は言ってやろう、とソリトは思った。


「ただの聖女だ」

「い・や・し、【癒しの聖女】です!」

「タワシの聖女です?」

「一文字しかあってません!」


 流石に疲れたのか、はぁはぁ、とルティアが息を切らす。

 ソリトはパチパチ手を叩いて拍手喝采。そこに何故か村長まで参加して拍手を送っていた。

 それだけキレあるツッコミは称賛出来るものだったということだ。

 それをルティアが如何にも不服です、と訴えんばかりの顔でソリトと村長を睨み付けた。


「で、村長。森についてだが、何がある」

「あ、その前によろしければ家に」

「いや、ここでいい」

「そうですか」

「代わりにアイツに飲み物を何かやってくれ」


 そう言われ、村長は家に戻り、水の入ったコップを持って帰って来た。

 そして、村長はルティアに水の入ったコップを手渡した。

 コップを受け取るとコク、コクとルティアは水を飲み喉を潤していく。

 その間にソリトは村長に事情を聞く。


「一週間前くらいの事です」


 村長が森の方を見て話を続ける。


「冒険者パーティが森の奥に入っていきました。ですが、その冒険者パーティはいつまで経っても戻ってくることはありませんでした」

「調査は行われたのですか?」


 飲み終わったルティアが訊ねた。


「はい、その二日後に」


 それから、話の内容をまとめると、調査に入ったその冒険者パーティの一人が数時間後に泣きながら戻ってきた。

 その冒険者の証言によれば大きな蛇の魔物だったらしい。


 調査に行った冒険者パーティは何度も森に入った事があり、その時の魔物はこの辺りでは見たことがなかったと言っていたという。

 おそらく、何処からか移って棲み着いたのだろう。

 それ以来、薬草採取に村の人間も行けなくなり困っているのだという。


「他にも冒険者はいる。それに騎士団はどうした?」


 時間は掛かるだろうが騎士団にも依頼すればいい話だ。ここから離れたのプルトの街にはギルドもある。

 いや、ギルドの場合は誰も冒険者が依頼を受けないのだろう。


 案の定、ギルドに依頼は出しているが誰も来ないらしい。

 騎士団には村でお金をかき集めて昨日やっと依頼を出せたという。

 今のままでは問題解決はまだ少し先になるのは明確だ。


「村の者も二人向かって……」

「そんな……」


 ルティアがショックを受ける。

 だが、逆にソリトは口から溜息を吐いた。

 我慢が出来なかったのだろうがい明らかに自殺行為だと呆れて言葉もでない変わりのようなものだ。


「お願いします!どうか私達を、村を助けてください!」


 ソリトのズボンに膝をついてしがみつき村長が懇願して来た。

 話は聞いたが助ける義理はない。だが、それだけ強いのなら、ステータスやスキルが解放されるかもしれない。

 断るのは少々惜しい話かもしれない。


「断ろうと思ったが……分かった。やってみる」

「そ、それは本当ですか!?」

「その代わり報酬は必ず渡せ。騎士団に渡した金を返金してもらえ。冒険者や騎士団じゃないから無理ですなんて話は聞かないからな」

「それは勿論!」

「あと一応、直筆で同意書を書いてくれ」

「わ、分かりました」


 それから、急いで村長が書き綴った同意書にサインして受け取り、ソリトは森を目指して行った。

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