第2話 孤高の勇者
十二歳になると洗礼の儀式というものを受ける事が義務付けられていた。
神から自分に見合ったスキルを授けられる為だ。
ソリトとファルも自分達の暮らしていた町の教会で十二歳になった時に洗礼の儀式を受けた。
そして、ソリトは【勇者】のスキルを授かった。
その情報は教会から直ぐにクレセント王国の王都へと伝えられ、全土に渡り、ソリトは知人から他人までに期待される事となった。
勇者が使命。それは魔王の討伐。
これまで、魔王は何百、何千年と現れた。
その度に勇者は魔王を倒すために現れ、魔王の元へと赴き、戦いを繰り返してきた。
つまり、勇者の出現は魔王の出現を報せるものでもあった。
洗礼から数日後。
ソリトは王都に呼ばれ、城内で三年間鍛練を受けた。
途中で挫けそうになるも、ソリトは決して折れず、鍛練に励んだ。
二年後、十七歳となったソリトは魔王を討つべく魔族領へと旅立つことになった。
仲間と共に。
その最初の仲間がファルだった。
ファルのスキルは【賢者】だった。
勇者であるソリトを支えるに十分見合ったスキルだ。
ソリトとファルは共に同じ教会施設で育った孤児。
そんな二人が【勇者】と【賢者】という最高職を授かった。
それを知ったとき、ソリトやファル、他の子ども達の世話をして来たマリーという老婆のシスターは「報われて良かった」と心から喜び涙を流した。
しかし、ソリトに関しては、シスターマリーはすべてを喜んだわけではなかった。
【勇者】のスキルと共に与えられた職業によって課せられた使命は命を落とす可能性が高い。そんな場所に行かせられないと心苦しい思いをしていた。
それを察したソリトは覚悟をもって魔王を倒しにいくと、必ず帰ってくる事を誓いに立てて王都に向かった。
同時期に、ファルがソリトの力になりたいと王都に訪れ魔王討伐を志願したらしい。
その時に一度再会したソリトはファルと恋人になった。
それから、ファルと共に魔王討伐の旅に出たソリトは緊急依頼で出会った同じ勇者のクロンズと共に討伐を目指すことになり、更に二人の仲間が増え、力をつけていった。
そして、恋人としても共に育んできた……筈だった。
「ォアアアアアア!!」
領地街から出て真っ直ぐ行った先にある樹々の生い茂った山。その山中でソリトは魔物を討伐していく。
まやかしだった。
裏切られた。
クロンズと関係を持ちながら普段通りを演じるという弄びまでされていた。
ファルも心から自分を愛してくれているとソリトは思っていたが、どうやらそれは幻想で、幻聴で、幻覚でしかなかったらしい。
弄べるほど、すぐに乗り替えられる程度しか愛されていなかった。
憎悪が膨らむ。
憤怒が溢れる。
怨執が湧き上がり、沸き上がる。
その全てを何処かにぶつけたい衝動に駆られる。
八つ当たりにも近しい自棄な剣撃は素人のそれに近かった。
本来はそうでもないが、感情に呑まれ、どうでも良くなっていた。
自分の感情をぶつけられれば、今はそれで良かった。
「ぐああああああ!」
肩と右脇腹に双頭赤犬という双頭の魔物に噛みつかれ、ソリトは痛みで叫び上げた。
血飛沫が舞う。
ソリトは痛みに耐え、右手に握っていた聖剣を自分側に持ち替え、双頭赤犬の二つの首共に串刺す。
「ガアアアアアア!」
噛みつくのを止め、振りほどこうと抵抗してくる。しがみつきながら首を抉るように何度も突き刺す。
やがて、双頭赤犬は動かなくなり倒れた。
「ぐっ……」
血まみれになったソリトは苦味虫を噛み潰したような表情で地面を睨み、土を巻き込みながら拳を作る。
双頭赤犬はソリトでも余裕で倒せた相手だった。
仲間が一人でも居ればの話だが。
ゆえに軽い負傷で済んだと自分の不甲斐なさを悔やんだ。
連携ができればという事もあるのだが、ソリトの通り名にもなっているスキル【調和の勇者】がそういう効果を所持しているのだ。
【調和の勇者】
自分を含めたパーティーメンバー全員の全能力を二割上昇。
自分を含めたパーティーメンバーの人数が増えるだけ所持者の全能力を二割上昇させる。
パーティーメンバーのスキルを効果を一段階上昇させる。
パーティーメンバー一人のスキルを一日一回使用できる。
パーティーメンバーに魔物、魔族特攻を付与
パーティーメンバーが減ると比例して能力が減少する。
【調和の勇者】。
簡単に言えば、仲間がいることで強くなるスキル。
今のソリトでも二割上昇し強くはなるが仲間がいる時とでは雲泥の差だった。
また、このスキルのデメリットとしてなのかは不明だが、魔法の適性がなかった。
今まではファルの【賢者】スキルで助けられていたが、現在は一人。回復魔法を受けたいと思っても、その仲間すらいない。
二度と恩恵を受けられない現実が突き付けられる。
やはり自分一人では弱い。仲間頼りの勇者としての力が裏目に出てしまっている事が、ソリトは悔しかった。
その時、魔物が新たに空から現れた。
腕が翼となったドラゴンの亜種、ワイバーン。
全てで三体。
それを負傷している状態で相手にするのは部が悪い。
誰かに助けを求めるか?、と考えたがソリトは胸糞悪くなった。
顔色を一つも変えずに騙し、貶すような奴がいる世の中。信用できるのか。自分もその貶し騙す最低最悪な同種を。
「人は裏切る。それが大切な人間でも。だったら誰も信じる必要はない、誰の助けも必要ない!!一人でこいつらを殺す!」
その瞬間、身体の底から沸騰し煮え滾るような憎悪が憤怒が先程までの比でないくらい湧き出し、全身を駆け巡っていく。
ドクン!
心から何か大きな鼓動を感じた。同時にパリンと何かが碎け散る音がソリトの頭の中に響いた。
『――キル【調和の勇者】が――より――――【孤高の勇者】へ反転し――す。反転の反動により能力―――が破壊―――ました。』
心からドス黒くドロドロした感情と共に視界が一瞬歪む。だが、その後身体の奥から力が溢れてくるのを感じた。
どういう訳かスキルが変わった。
否、【反転】した事を理解した。
ソリトは立ち上がり、剣を片手で握り締め、ワイバーンの正面を項垂れるような姿勢で向く。
「精霊よ、祈りの聞き届け彼の者に癒しを〝アインス・ヒール〟」
そう唱えた瞬間、ソリトの体が光に覆われ傷が僅かに癒えた。
理由は分からない。しかし、不思議と使える気がした。
「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
高まる高揚感に任せた、不気味で地獄のような畏怖を抱かせるような笑い声が響いた。
それはワイバーン達に恐怖を抱かせ、後退させた。
それが癪だったのかワイバーン達は猛烈な勢いでソリトに向かって突進してきた。
「死ね」
「「「グオ?」」」
疑問符を浮かばせるような声を発した瞬間、ワイバーン達の首がストンと落ちた。次に首以外がズシンと落ちる。
ワイバーン達は自分達に何が起こったのか分からずこの世を去った。
まさかソリトが一瞬で一体に一回計三回剣を振っただけとは知らずに。
「汚ねぇ」
ソリトは聖剣に付いた血を地面に払って鞘に納めると、自身の手を見て握っては開いてを数回繰り返す。
何がどうなっているのか全く理解できない。
しかし、この力があれば仲間など不要だということだけはソリトは理解し、歓喜し、小さく笑みを浮かべた。
『ワイバーン討伐により全能力が上昇します。』
『ワイバーン討伐により全能力が上昇します。』
『ワイバーン討伐により全能力が上昇します。』
『スキル【回復師】獲得』
『スキル【賭博師】獲得』
【孤高の勇者】
反転スキル。
全能力が常時倍に上昇する。
敵を倒す度に全能力が成長する。
人間を含む全ての生物特攻常時付与。
スキル、魔法を一段階常時上昇
メンバーが増える度に能力減少。
全スキル習得可
全魔法習得可
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