54.去り際の反撃と、見せない涙
◇◇
赤の領域、
集団の先頭にいたのは、踊り子のような服を身に着け、魔剣"ジャスハルガ"を背負ったドワーフの"キテラン王女"。そして、常に空中で燃焼し続ける"
「こやつらは、
「左様でございますな、王女様。──ああ、クウ殿。こうもお早く
ガルニオラはキテランに深く一礼した後、キテランの見つめる方向を見た。
キテランとガルニオラ、後ろに
「──ねえ。ランさんも今日ここを出て行くんだよね。行き先は何処なの?」
「さあね。とりあえず……危険な連中には会わないような場所へ行くつもりさ。"十三魔将"とかね。──まあ、アタシはまた近いうちにこっちの土地には戻って来るかも知れない。ドワーフの街には、"発明品"に必要な材料を買う時とか、
ランがクウの質問に答えた。彼女の頭には、例の"
「おや、アタシの迎えが到着したみたいだ。クウ、フェナ。それに、ソウ。──お先に失礼するよ」
「えっ、お迎え……?」
クウがそう言った時、岩場の地面に、突然巨大な影が出現した。その場の全員が、驚いて頭上を見上げる。
気球に
「な、何だこりゃあ──!?」
ソウが珍しく
「"船"に乗ってるからこそ、"
浮かぶ船から、
「さあ、"
「ああ、行くよ。──それじゃアンタ達、
ランは特徴的な帽子を手で抑えながら、器用に
まだオボルが
「……クウ。あれは何? なるべく分かりやすく、説明してくれないかしら」
「あの蒸気はランさんの青い"輪"、"
「知りたいのはそこじゃないわ。一体、何で船が空を飛んでるの? ──クウやそこの青黒フードも
「僕なんかの頭じゃ説明できないね。とりあえずあの船に向かって、こう言っておけばいいよ。"
クウは複雑な思考を
「……どうでもいいが、"吸血鬼"。お前、俺を"青黒フード"っつってんのか」
「あら、文句でもあるのかしら? あなたもたった今、私を名前じゃなく"吸血鬼"呼ばわりしたじゃない」
「へっ、確かにな。お互い仲良くする気もねえだろうし、別にいいか」
フェナとソウの態度は、双方とも
「さて、クウ。──俺達も出発しようぜ」
ソウはそう言って、"
「"青の領域"に直通で行ける大穴を
その言葉の後、ソウはクウとフェナに背を向け、"輪"の操作に集中し始めた。
「──キテラン王女」
クウは真剣な表情でドワーフの集団の先頭に立つ、キテランの方へと近づく。キテランの方も、クウへとゆっくり歩み寄る。
フェナは──キテランを
「その魔剣、フェナに
キテランがむっとして、口を
「
「僕に
「分かっておる。そなたは
「え、フェナがそんな事を……?」
「このまま
キテランはそう言うと──突然クウの身体に跳びつく。首に両手を回されたクウはそのままキテランに抱き付かれる格好になった。薄着のキテランの肌から、密着するクウの身体へ体温が伝わる。
「え──キテラン王女……?」
「──ふふっ」
不敵に笑うキテランは、クウの顔に自分の顔を近づけると──
キテランの位置からは、二人の様子を見て驚く──フェナの姿が確認できた。フェナの方向からは、恐らくキテランがクウのどの場所にキスをしたか、はっきりとは見えなかったのだろう。
「これで満足してやろうぞ。
「……予想外の
キテランが、クウの身体から手を放して地面に着地する。クウの顔は
「ふふ、その顔を見て気が済んだのじゃ。──案ずるな、クウよ。
「うん。それについてだけど、考えた事があるんだ。……最後に一つだけ、いいかな」
クウは腰袋から──ガルニオラに
「僕は前世で、こういう"三つの願い"が叶う場面があったら、どんな願い事をしようか
クウの手の中で、宝石が赤く光り始める。
「でもこうしてみると、やっぱり自分にだけ
クウは
「崩れ落ちた宮殿が元通りになり、"ガガランダ王国"がキテラン王女、いや──"キテラン女王"のもと、イルト史上最高の
クウの願いを──宝石は聞き入れたようだ。クウの手の中で、赤い宝石が強い光を放ちながら、
「叶ったのかな? ──『崩れ落ちた宮殿を元通りに』、『"ガガランダ王国"が繁栄するように』。二つのお願いを一度に言う
「クウ、そなた──!
「僕にとってこういうのは、あまり長く持っていたい物じゃないんだよね。──それに僕は"イルト"での自分の役割を、前世の分まで誰かの役に立つ事だと思ってるんだ。この願い事を──僕は絶対に後悔しない」
「……本当に、後悔してはおらんようじゃのう。目に──迷いがないわ」
クウは手の中から宝石が完全に消えたのを見届けてから、キテラン達、ドワーフ族一同に背を向ける。
"輪"による大穴の形成を終えたらしいソウが、フェナと共にクウをじっと見つめていた。
「キテラン王女、いや──"キテラン女王"。もしも皆がまた危険な目に
クウは顔だけをキテラン達に向け、優しい声でそう言った。そしてソウの展開した大穴に、フェナと足並みを揃えて進むと──その姿は一瞬で見えなくなった。
「クウ、カッコつけやがって。──けどあいつ、きっと冗談で言ったつもりはねえんだろうな」
ソウが二人を追うように続き、大穴の向こうに消える。そして紫色の光を放ちながら──大穴はまるで何事も無かったかのように消滅した。
「うっ……」
「──む、キテラン様?
ガルニオラが心配そうに、キテランを横から見た。
「本当は──クウを……行かせとうなかったのじゃ……」
「左様で……ございますか。そのお気持ち、お察しいたします。──
「うっ、ひっく……。ぐすっ……。うわああああん──!」
その場に座り込みながら、キテランが大声で泣き出す。
ドワーフ族の
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