39.ドワーフ王家を追え
家屋の一室に、再びクウとフェナは二人きりになった。二人はどちらからともなく、お互いを見る。
「──クウ。ドルス将軍のあの言い方、気にならない?」
「確かに。もう当分は会えない様な言い方に聞こえたね。──あの足で、ウルゼキアに戻るつもりかも知れない。ドルスさん達の部隊は、もうシェスパーの追跡を心配する必要は無くなったから」
「"メルカンデュラ"の修復作業も一通りは済んだし、良い判断だと思うわ。ここから白の領域までの"黒の騎士団"は私達が殆ど一掃して来たし、今のドルス将軍達なら、問題無くウルゼキアへ戻れるでしょう。──セラシア王女への借りは、これで返したわね」
フェナはそう言うと、長椅子の間に空いていたクウとの間隔を
「さて──私達、二人きりね」
「別に、珍しくもないけど?」
「
「いいけど、何について?」
「あなたの背中にあった、黒の"輪"について」
フェナはクウの背中を指差す。
「ウルゼキアの"
「僕が気付かない内に発動してたんだね。どうやら黒の"
「
クウの言葉を引き継いで、フェナが言った。
「あなたが”
「再生能力、か。──僕が”
「クウが無自覚の内に、何度か黒の"輪"は展開されていたのかも知れないわ。そして黒の"輪"が発動するたびに、クウの身体は再生──場合によっては、部分的に強化されていく」
そうかもね。恐らく、黒の"輪"を完全な形で展開できたのは、今回の一戦が初めてだったんだと思う。──言っておくけど、性格や口調まで変化したアレは、僕の意思でやった訳じゃないからね」
「あら、そうなの。──強引に私の首に食らい付いて、力づくで血を
フェナは
「一つ、新しいイルトの言葉を教えるわ。──"十三魔将"の黒い"輪"、"
「"
「
「前世の僕は強力な戦士どころか、
クウが小声でそう言った時だった。その時、不意に二人のいた部屋の扉がドンドンと乱暴にノックされる。
「誰だろう? ──どうぞ」
「おう、失礼するぜ」
次なる来訪者は、クウに"
「ん、もしやお楽しみを邪魔しちまったか? 俺とした事が、こりゃあいけねえな。許してくれ」
「そんなんじゃありませんよ。ロフストさん、何かご用ですか?」
「ああ、お前さん達に用がある。──今しがた、ドルス将軍
ドルスの去り際の様子を、クウとフェナは思い出していた。
「さて、伝言は伝えた。今度は俺の用だ。──メルカンデュラを救ってくれた英雄達に、ドワーフを代表して礼をさせて
ロフストは背中から、布に巻かれた何かをクウ達に突き出して見せる。巻かれた布をロフストが雑に取り払うと、中から──
「鉄工所も工房も大半は壊されちまったが、全ての設備が使えなかった訳じゃねえ。それに"
フェナが長椅子から立ち上がり、ロフストの持つ剣に近寄る。
「これはすごい……。見ただけで分かるわ。かなりの
「見る目があるな、お
「"
「そりゃあるさ。"輪"を持った特殊個体の扱いが、そこらの"
ロフストは"錆剣"をフェナに渡しながら、クウを見る。
「まあ、ともあれ──そいつは是非とも受け取ってくれ。長さや重さを調整してあるから、お前さん達二人のどちらの手にも
「ありがとうございます、ロフストさん。是非とも受け取らせて下さい。──これでフェナも、これからは"魔剣"で戦う事ができるね」
「あら、私に? ──魔剣なら、"輪"を持たない私よりクウの方が、
剣を持つフェナが、クウと剣を交互に見て言う。
「
「
フェナは漆黒の刀身を指でなぞる。剣が本当に気に入ったらしい。
「喜んでもらえて良かったぜ。俺の用事はこれで全部だ。──いや、もう一つ聞きたい事があったな」
「聞きたい事? 何です、ロフストさん」
「今後の事さ。お前さん達、これからどうするんだ? ──"白の騎士団"とお前さん達の助けもあって、"メルカンデュラ"の街は立ち直れた。もう俺達ドワーフだけでも、やっていける程にな。お前さん達が、こんな硫黄だらけの街に留まる必要は、もうねえよな」
「その通りですね。僕も今、それを考えてました」
クウは
「なあ、お前さん──いや、"クウ"」
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