38.一時の休息
◆◆
ウルゼキアの宮殿。豪華な調度品に
王女の手には、
「──"もしもし"、ですわ。クウさんですの?」
(……ん? ……せ、セラシア王女様。"大盾のドルス"でございます)
「ドルス? まあ、驚きましたわ。良かった、無事だったんですのね。──ところで、その"
(クウから許可を得て、一時的に貸してもらった
「クウさんと合流し、現在一緒にいるという事ですのね。宜しいですわ、聞きましょう。──どうぞ、お話しなさい」
(はっ。恐れながら申し上げます。──お喜び下さい、セラシア王女様! クウとフェナの活躍により、"十三魔将"の
ドルスの大声が、セラシアの耳を揺らす。"
「あんっ……! もう、いきなり大声を出さないで下さいまし、ドルス」
(あっ。も、申し訳ございません!)
「その声も
(はい、確かであります。──ちなみにシェスパーの正体は、女の
「ど、"
(真実であります。赤の"輪"を持った、強力な特殊個体でありました。ですが、ご安心を。──クウが、その"
「な、何ですって……?」
"
「"輪"を持った"
(同感であります。しかし、"
「疑ってはおりませんわよ。──"人間"というのは、本当に
(ははっ、王女様。私も同じ言葉を、クウに向かって言った覚えがございますよ。──ああ、言い忘れておりました。私の部下の騎士達は、全員無事であります。我々は現在も"メルカンデュラ"に滞在しており、破壊された建物の修復作業に手を貸している最中であります。──クウとフェナの、二人と共に)
「
(はっ、
「ああ、それと──私からも一つ、伝えておかなくてはならない事がありますわ。──今より、クウさんとフェナさんのお話をする事は固く禁じます。これは騎士達にも命じておきなさい」
(えっ……それは、何故です?)
「それがお二人の為だからですわ。詳しくは、あなた達が帰還した後でお話しします。宜しいですわね?」
(わ、分かりました。──では、これにて)
赤く点灯していた"
「──そこにいるのは、どなたですの?」
セラシアが、全く開閉されていない扉に向かって、突然そう言った。
「ずっと聞き耳を立てていらっしゃいましたわね。良い趣味をされていますこと」
「口に気をつけろよ、セラシア。私は
扉が、音を立てて開く。豪華な鎧を身に
「ふん。魔力を
「お褒めに預かり光栄の至りですわ、お兄様。あら、ごめんあそばせ。アルシュロス将軍──でしたわね」
「ふん、呼び方などどうだっていい。まあ、私はお前を妹とは思わないがな。──
「良く回る舌をお持ちですこと。──その
美男子の騎士──アルシュロス王子とセラシア王女は、互いに視線の火花を飛ばす。
「──先日の一件に関して、お前へ疑惑の目を向ける者が多数いる。お前も気付いているな?」
「人間と上位吸血鬼の二人組が、お父様に
「国王暗殺の疑惑だ。
アルシュロスは、意地の悪そうな顔でセラシアを見下ろす。
「お前は直前、例の二人組と会っていたそうだな。それも、この部屋でだ。それに、城下町の掲示物の事もある。私も見たが、"人間"を探しているという内容の
「それは事実ですわ。あの"十三魔将"を倒したという"人間"に、白の騎士団の司令官として会わない理由がありませんもの。打倒、"黒の騎士団"を掲げる私達の、強力な味方になってくれるかも知れませんからね。──そんな理由で、皆様は私をお疑いになっているんですの?」
「お前意外に怪しい奴がいないから──というのも大きいだろう。今のお前は、その見た目を
「──考えるのも馬鹿らしいですわ。どうして
セラシアの
「お前の腹の内など、知った事ではない。重要なのはお前の地位が、今とても
これで言いたい事は全て言ったとばかりに、アルシュロスはセラシアに背を向ける。
「私はお前を認めないぞ。妹としても、騎士としても──魔術師としてもな」
アルシュロスは扉を乱暴に開き、そのままセラシアを振り返らずに外へ出て行く。
セラシアは悔しそうな表情で、その背中を見送った。
◇◇
赤の領域。メルカンデュラにある家屋の一室に、クウとフェナはいた。
クウとフェナは長椅子に腰掛け、二人で部屋の扉を見つめている。誰かを待っている様だ。
少しすると、大柄なノームの男が扉から姿を現す。"大盾のドルス"だった。
「クウ、助かったぞ。ほら、"
「あ、はい。お話はもう、済んだんですね」
「済んだぞ。──お前が
ドルスは"
「ドルスさん、セラシア王女は元気でしたか?」
「ああ、
「そうですか……。でも、その通りかも知れません」
「何? どういう事なんだ?」
クウはドルスに説明はせず、代わりに横のフェナと視線を交わす。
「詳しくはセラシア王女に聞いて下さい、ドルスさん。──先に言っておきますが、僕とフェナはウルゼキアに戻るつもりはありませんよ」
「そうなのか? 興味本位で聞くが、それなら何処へ行くつもりなんだ?」
「まだ決めていません。でも、他の"十三魔将"の
ドルスは不思議そうな様子で、首を
「何か事情があるんだな。
ドルスは少し照れながらそう言うと、扉から外に出て行った。
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