第6話 終わりとこれから
試合は順調に進んでいく。三回に四球から始まり連打で一点を返されたもののすぐに立ち直り、黒絵は四回を投げて一失点。攻撃では三回に二点、四回に一点ずつ追加点に成功し、五回から登板した姉崎陽依は三回を投げて一失点とリードを許さずに試合を終了した。
一試合目は三対一で敗れているが、二試合目では四対二としっかりとやり返した形となった。
「巧くん。お疲れ様」
試合終了の挨拶を終えて相手チームは帰りの準備、明鈴高校はグラウンド整備や道具の片付けをしている。そんな中、相手チームへキャプテンとして個人的に挨拶に行っていた夜空が巧に労いの言葉をかける。
「たいしたことはしてませんよ」
試合後半では追加点を取るために代打を出したり打つ方向を指示したりバントのサインを出したくらいだ。
「いやいや、四回の代打はバッチリ当たったよ」
ワンアウトランナー二塁の状態でバッティングが不得手な千鳥煌、豊川黒絵と続いたため二年生の佐々木梨々香と一年生の椎名瑞歩を代打に送った。二人ともまだ特徴は掴めていないが、一試合目と試合前の練習を見る限りバッティングに期待できそうだったため代打の起用をし、レフトの陽依をピッチャー、セカンドの夜空をセンター、センターの伊澄をライトに変更し、守備要員としてレフトに二年生の月島光、セカンドに二年生の水瀬鈴里を起用した。そこからは逃げ切り体制だ。
「たまたまですよ」
「たまたまでも私の采配だと上手く機能しないから」
以前夜空から聞いていたが、顧問は野球は素人で今までは采配も夜空が行なっていた。顧問は応援係といったところだろうか。
「……少なくとも部内の誰よりも巧くんの采配はよかったし、実力も私以上だからアドバイスもできる。巧くんがよかったらもう少し力を貸して欲しいんだけど……」
いつも強気な夜空とは違い、しおらしい表情で訴えかけてくる。もちろん答えは決まっている。
「無理ですよ」
巧は夜空の願いに応じずあくまでもこの試合限りの一点張りだ。
「自分は中学時代、シニアのグラウンドに野球は置いてきました。あのマウンドで燃え尽きたんです。中途半端に戻る気持ちはありません」
野球は好きだ。これからもなんらかの形で野球は続けていきたい。今でもバッティングセンターに通ったりトレーニングは続けているし、怪我が良くなってボールを投げれるようになれば草野球でも野球をしたい気持ちはある。
しかし、あくまでもプレイヤーだ。選手だ。
遊びの野球はしたいが真剣勝負でやる野球は巧の中ではもう終わっているのだ。
「……そっか、ごめんね」
夜空は俯いているが、「はぁ」と息を吐くと巧に向き直った。
「じゃあ今日の反省点だけ最後のミーティングで言ってくれないかな?」
「それはもちろん」
今日だけの約束だがまだ約束は完遂できていない。今日らコーチでも監督でも引き受けた以上最後までやり遂げる。
熱く、速くなる胸の鼓動を抑えながら巧は夜空の言葉を受け止めた。
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