アイカセカイカ

師走川竜之介

プロローグ

 ベル大陸・イモータル王国。その辺境に位置する小さな村があった。

 中央都市のように発展しているわけでもない辺鄙なその村の片隅に位置する場所には小さな墓石があった。その近くには小さな小屋⋅⋅⋅⋅⋅⋅ではなく家があった。

 あるのはただそれだけ。その周囲には他の建造物は一切無く、あるとしても個人でも耕せそうな小さな花畑があるのみだ。

 そんな誰もいないような土地だったが、


「──おお、いい天気だな」


 不意に家の扉が内から開けられた。中から現れたのは八十代程度の一人の老人だ。

 大地に降り注ぐ強烈な日光をまともに浴び、気持ち良さそうに目を細めた。

 天気は晴天。欠片も雲が観られないような素晴らしい晴天だ。

 老人は三十秒程度じっくりと、全身で日光を堪能してようやく外へと出て、扉を閉めた。そして家の近くにポツンと存在する墓石に近づき、背丈を合わせるようにしゃがむと、静かに佇む墓石に話しかけ始めた。


「おはよう。今日は花の日だから良いものを持ってきたんだ」


 柔和な笑みを浮かべ、シワだらけの顔を更に歪めた老人は両手で大切そうに持っていた一輪の赤い花を「じゃーん!」と嬉しそうに言いながら墓石に見せつけるように出し、墓前にそっと植えた。


「お前が好きだった花だ。最近の大雨で助かったのは一本だけだったけどな。まあ、許してくれ」


 一本しか持ってこられなかった事に苦笑し、許しを乞う老人。そのまま数秒笑顔で墓石とにらめっこしていたが、不意に老人の表情が寂しげなものに変化した。


「あれから七十年か⋅⋅⋅⋅⋅⋅。時間というのはとても速く流れるものだな。それとも俺の感覚が狂ってるのか。だとしたらそれはきっと──」




「おーい。いるかー」

「二人で来たわよー。早く出てきてよ」


 不意に誰かの声がした。どちらも少ししわがれてはいたがそれはどこか快活な声だ。

 その声に反応した老人は苦笑を浮かべ、立ち上がりそのまま声の主の元へと行こうとする途中で振り向くと、


「またすぐに来るよ。でも今は客人の相手をするから今は我慢してくれ。誰かって? お前もよく知ってる二人さ」


 そう言うと老人は前を向き今度こそ、声の主の元へと歩いていった。その後ろで見送るように赤い花が風に花弁を揺らしていた。


 



 


 

 

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