第9話 A

 事件の概要をまとめていくごとに荒巻は、浅川の事件に対する緻密さと計画の雑さに疑問を感じていた。

 浅川浩也容疑者が事件を起こすことになった動機は、幼少期から青年期にかけていじめられたことで屈折してしまった、社会への閉塞感であった。そこで、浅川は日本中を火の海にすることで世界を変えようと考えたのだ。しかし、そんな勇気もなかった彼は途方に暮れてしまう。

 そんなとき、高校で出会った男を利用して代わりに犯罪者になってもらうことにした。そこからは様々な手を使い彼を勘違いさせることに成功した。

 彼は努力をして、警察官になった。そこからも信頼と実績で警部に就任した。


「警察になったのは、事件を裏で操りやすいからか……うん、でもやっぱり、長い時間をかけてエンジェルに仕上げたのに、涼子さんを妻にしたりするのは違和感があるな」


「浅川警部は途中で、仮面の下の自分に気づいてしまったのだろうな」

 荒巻はタバコを吸いながら、そう結論づけた。


 ここは、空港の喫煙所。隣に置いてある黒いバックの中には数億円の現金が入っている。

 エンジェル真理教団は、爆破テロ事件を起こすまでは麻薬を製造するビジネスを行っていた。団員はシャブ漬けにさせられていたという仕組みである。

 爆破テロ事件が起きた後、教団は解散させられたが麻薬のルートだけは誰も知ることがなかった。この事件の首謀者はエンジェルでも浅川でもなかったからだ。二人の存在を知って、利用した人間……いや、卑怯な詐欺師が居た。


 



「速報です。先日日本中を騒がせた連続爆発テロ事件の犯人、『エンジェル真理教団』のエンジェルの本名が捜査により判明しました。彼の名前は荒巻真司。普通の一般男性であったと思われます。彼には荒巻雄大という3歳上の兄との繋がりが確認でき、現在荒巻雄大氏の身元を捜索中です」

「えぇ、追加情報が入りました。荒巻雄大氏は警察組織に所属しており警部補を務めていた人物です。警察はこの事態を重く受け止めており……」


 彼はタバコを半分残して、喫煙室を出た。

 彼……Aの行方は誰も知らない。


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