6/6 ライム誕生日SS「ボクの大好きな人」

「見晴らしいいでしょー、ここの塔から垂れ幕とかガーランドを吊り下げたら見た目も豪華になると思うんだ」


 建設途中の『ライムの関所遊園地』 その一番高い塔の上で、私たちはすぐ目の前を流れるレーテ川を見下ろしていた。


 高く澄んだ青い空は突き抜けるように高く、私の腰まで伸びた髪とライムのふわっとした髪の毛がわずかな風にそよぐ。


 藍色の瞳を輝かせた彼は、両手の指先を合わせるように口元に持っていくと、えへへと小さく笑った。


「でね、でね、ここからレールを走らせてね、川の上とかも通ってジェットコースターも作りたいんだ。これだけの高さがあれば一回転とかできると思う」

「安全面はしっかりとね」

「もちろん!」


 その後も、活き活きと今後の建設計画を語るライムに合槌を打ったり、私も意見を出しているとあっという間に楽しい時間は過ぎていく。


 ひとしきりアイデアを出し切ったのか、満足そうに吐息をついた彼は塔の縁に手をかけて猫のようにグーッと伸びをした。


「あのね、さいきんボク毎日がすごく楽しいんだ。ベッドに入っても明日が来るのが待ちどおしくって、充実してるっていうのかな?」


 そのまま白い喉元をさらして上を向く。長いまつげを伏せて語る横顔は、いつもより少しだけ大人びて見えた。


「アキュイラ様が魔王だった時も、もちろん充実はしてたけど……でも戦いの為の準備よりは、今の方がボクは性に合ってる気がする」


 だからね、とパッと目を開けたライムは、視線だけをこちらに寄越してイタズラっぽく笑って見せた。


「ずーっとこんな日が続けばいいなって言ったら、怒る?」

「もう、これだってある意味、戦いの為の準備なんだからね」


 苦笑しながらこちらが言うと、分かってまーす、とおどけたように舌を出す。


 そんな彼を見ながら、私は体の向きを反転させて勢いをつけて塔の縁に腰掛けた。


「ねぇ、ライムはどうやってアキュイラ様と知り合って魔族軍に入ったの?」


 前々から聞きたかった事をぶつけると、パッと顔を明るくさせた彼は身振り手振りも交えてその時のことを話してくれた。


「ボクすっごい弱っちいスライムだったんだ。泣き虫だし度胸はないし――」



 スライム族は魔族の中で比べても決して強い方とは言えない、そのスライムの中でも特に気弱だったライムは同年代の子供たちからいつも虐められていたそうだ。


 でもそんな彼にも一つだけ得意なことがあった。色々な建築物やカラクリを見るのが好きで、自分でもあれこれ模型を組み立て、自宅に隠し持っていた。と、いうのも、洞窟に住む原始的な生活をしているスライム達に、その仕組みはまるで理解されなかったからだ。


「ボクも『なんでこんな事が好きなんだろう』って悩んだ時期あったなぁ」


 モノづくりが好きなスライムはニンゲン領の建築物を見るのも好きで、暇を見つけてはこっそりあちらへ行っていた。


 臆病な彼はいつも冒険者や他の魔物に見つからないよう、慎重に慎重を重ねて移動していたが、ある日ついに触手のある魔物に捕まってしまった。もはやここまでかと諦めかけたその時、彼女は現れたそうだ。


「それがアキュイラ様?」

「うん、偶然通りかかって助けてくれたんだ。でもボクを逃がす代わりに捕まっちゃってね」


 そこから先の事は私も少しだけ知っている。いつか見た記憶で捕まっていた場面、あれはライムとの出会いの瞬間だったんだ。


「励まされて、ヤケクソになって体当たりしたんだ。そうしたらあっけなくやっつけることが出来てさ……だけど今になって考えると、捕まったの自体がアキュイラ様の演技だったんじゃないかなって。ボクに自信を持たせるために、わざと一撃で倒せるようにしてくれていたんだと思う」


 じわじわ体力を奪う闇属性魔法とか得意だったしね、と苦笑しながら続けるライムはどこか照れくさそうに頬を搔いていた。


 向きの変わった夕風が、南の森の深い香りを運んでくる。そろそろ戻る時間だ。


 塔の内部に通じる石段を先に降りかけたライムが、急に振り向いて手を差し伸べてくる。


「アキラ様、手つなご?」


 純粋なその笑顔に微笑み返し、二人で手を繋いで階段を下る。



 さぁ、お城に帰ろう。みんなが待ってるはずだから。

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