第49話 片付けが終わったころ

 片付けが終わったころ、長田君が戻って来た。

「昼間はほとんど空いていたよ。これから、授業が短縮になるから、5時限の時はほとんど取って来た。

 ということは、月水金とここで練習ができるわけだ。

「でかした!長田!」

 男子の方もテンションが上がっている。

「それで、これから必勝祈願に行かないか?」

「必勝祈願? どこに?」

 いきなりの長田君の発言に私だけじゃなくてみんなの頭の上に?マークが浮かんでいる。

「この近くに昴神社があるんだ。天孫降臨した初代天皇の神武天皇が日向から大和に東征していた途中で、この越山町に寄ったんだ。

 それで、野営をしていた時、真っ暗な中、この地方の豪族に襲われて、もう駄目だという時、天に向かって「天よ。我に力をお貸しくだされ!!」と祈ったそうなんだ。新月だったはずの夜空に6つ星が流れて昼間のように明るくなったんだ。

それを見た豪族が途端に豪族が掌返してさ……。「彼こそはこの地を治める神じゃ。わしらはこのお方に付いていく」と。

そこで、神武天皇がこの国を儂が平定して統一国家にすると決心されたんだ。その豪族の6人の武将たちは六星剣と呼ばれて、大和国家樹立に大いなる貢献をしたと書かれている。

それで後にこの地にその六星剣を讃えて昴神社を建立したらしいんだ」


長田君、長い説明をありがとう。長田君が越山町の歴史や文化に詳しいことはわかったわ。だって、長田君以外この話を知らないみたいなんだもの。大体、古事記にも乗ってないようなマイナーな風土記もどきのあったらいいな的、歴史話をされてもね。

まあ、長田君の熱意に免じて行ってあげるわ。長田君はこの町が好きなんだもんね。

「ねえ、ここから近いんだよね。それに必勝祈願に最適なんだよね?」

「もちろん。勝負事の願いならここだって日本神社巡りって本に書いてあったんだよ。

それで、神社マニアの隠れた聖地になっているって」

「うん、そんな本誰も知らないから。自費出版? 神社マニアの隠れた聖地? どこ情報よ?」

「越山町在住の歴史研究家の人が書いた本だよ」

「何なのよ! その手前味噌な本。まあ、いいです。まだ日も高いしね」


 そういう訳で、私たちは文化ホールからチャリで5分とかからない昴神社に詣でることにした。


 いざ、出かけるといかにも古墳じゃないかいう感じのこんもりと茂った丘のふもとに石作りの鳥居があり、見た目はなんの変哲もない神社だった。

「ここが歴史的に有名な神社?」

「そうだよ。その時降ってきた6つの星がご神体だって」

「星がご神体?」

 私と長田君の話に真理が入って来た。

「そうそう。ここの神社に小学校の時に来たことがあるよ。変わった形の石?だったよね」

「へえー、ご神体が見られる神社なんだ?」

「お兄ちゃん知らなかったの? ここに在る灯篭型の石は神社を中心に星座の昴と同じ配置になっていて、灯篭型の石がご神体なの」

 真理の話に頷いているのは薊会長だけだ。夜空に輝く星座の昴、いわゆるプレデアス星団は確かにドーナツ型の星雲だったけど……。それと同じ配置?

 しかし、真理の言葉は鳥居を潜るとすぐに理解できた。

 鳥居とはこの世と神界を分かつ境界だって言われてるけど……。肌を刺す空気はピンっと張ったようでこちらの緊張を促す。それに、清々しさとは無縁なこの威圧感は……、これは畏れというものだ。私の腕には鳥肌が立っていた。

 そして、ご神体と言われた石は、表面が溶けたようにガラス状になって、灯篭と云うより、ツララが地面から生えたようになっている。

 その姿は、まるで写真で見たモヘンジョダロの遺跡だ。

 高熱の矢が天から降り注いでこの地に突き刺さった?

 圧倒された私とは裏腹に、長田君は暢気に話を始めた。このプレッシャーを感じない?! よほどの大物なのか、感受性が0なのか?

「ここの神社、正式なお参り方法があるんだよ。6人がご神体に左手を付いて、中央の祭壇の前で代表者が必勝祈願をするんだ」

「なるほど?!」

 私の言葉に、周りの目が私に集中しているのかしら? 全員顔だけはこちらを向いている。

「アンナが中央で必勝祈願するべきでしょうね」

「ここは美晴に譲ります。この人数を集めたのは美晴ですからね」

 真理と薊会長の言葉にみんなが頷いている。

 これって冗談じゃないわよね。私は顔の表情が読めないんだから、やっぱ冗談ってその気になってから言われても、傷ついちゃうのよ? でも、みんなの雰囲気は肌で感じている。さっき鳥居を潜ってからお肌が敏感になったみたい。

 みんなの思いが両肩にズシリとのし掛かったようだ。

「じゃあ!」

 私の掛け声で、みんなは思い思いにご神体の方に散らばって行った。

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