第16話 私が教室に入ると
私が教室に入ると、あれ、一番後ろの私の席が在りません。そして、教室の一番後ろを見ると、私の机は、掃除の時に下げたままの状態で、ご丁寧に、教室から集めたごみが乗せられています。
私の机は塵取りじゃないわよ! まったくー。
でも、アンナたちがマリアにした時は、机の上にマジックで卑猥な絵や言葉を書き殴っていて、マリアがなかなか消えなくて困っていましたね。
さすが、まだ中学生。そういうことに興味はあるけど、露骨にしない恥じらいがあります。マジックで落書きされて無いだけ、マリアの時よりましですね。
仕方なく、私はロッカーに行き、ほうきと塵取りを出してきて、自分の机のごみを取り、ついでに、綺麗に雑巾で拭いて、長田君の隣まで抱えてきました。
長田君。女子が重たそうにしているのに見ているだけなんて! まったく、さっきのイケボと違って、使えないんだから!
――草書書き山中さんサイド――
昨日、帰り際に、靴箱に美晴の上履きが在るのに気が付きました。どうやら美晴は虐められるのを避けて、とっとと帰ってしまったようでした。
美晴さんが、「庄田君って、かっこいいわよね」という発言をしたことで、彼氏のいる三国さんや江坂さんは寝取られないように、彼氏の防御に回ってしまいました。
それで、手薄になった美晴さんへの直接口撃は、影を潜めてクラスでハブる方向で、仲間外れしていますが……。あの美晴がこの程度のことで、堪(こた)えるはずないのです。あの目を見ていればわかります。時々みせるあの鋭い目、生死を賭けた修羅場をくぐって来たに違いありません。
都会って、怖い所だと聞いていますから……。
それで、さっき、掃除当番で、美晴の机だけ元の場所に戻さず、集めたごみも机の上に置いてきましたが、ここに上履きがあるのなら隠してやりましょう。慌てる美晴の顔が思い浮かびます。
まあ、本当に無くなったら親も巻き込んで大変なことになりそうですから、すぐに見つかるところ、でも、それじゃあ見ていて面白くないから、なかなか取れそうにないところに隠しましょうか?
これで、上履きが無くておろおろしたところ、それから、だれからも手を差し伸べてもらえなくって、上履きが取れなくておろおろするところ、二回も美晴の間抜け面(づら)が拝めてさぞ楽しくなるでしょう。
私はそう考えて、美晴の上履きを取って2階に上がり、窓からかなり下にある一階部分の庇(ひさし)に向かって、上履きを投げ捨てました。
どうやって取るのかしら? それとも先生に泣きつく? でも、貴方の容姿は私と違って、いじめられオーラが不足しているわよ。先に手を出した報復だって先生には思われるかもね?
あーあっ、今日は本当にいい仕事をした。
そして、翌朝、学校に早めに来て、靴箱のところで美晴の靴箱を見張っています。
そこに、息も絶え絶えな美晴がやってきました。まったく、都会の人間って体力がないんだから。
それで、美晴は自分の靴箱を開け、ため息を吐(つ)くとカバンから新しい上履きを取り出し履いています。それに今まで履いていた下履きは、シューズ袋に入れて、カバンの中に何事もなかったように入れたのです。
くっ、上履きが隠されることはすでに予想していたか? 確かにあまりにも古典的ないじめです。
そして、まるで私に気が付かないように、階段を昇り廊下を歩いて行きます。
なんで、私に靴のありかを聞かないのよ? 昨日の経緯(いきさつ)から言って、重要参考人でしょうが!
そして、外を眺めながら歩いていた美晴は、すぐに庇の上に載っている上履きを見つけてしまいました。
まさか、私が昨日したことを一部始終見ていた!?
それでも、そこにある上履きはなかなか取れないだろう? どうするんだと見ていると、ちょっと、美晴のやつ困った顔をしだしました。
それだよ、その顔が私は見たかったんだよ! 残酷な気持ちが心の底から湧きあがってきます。なのに美晴に声を掛けたのは、私が憧れている三好雄二君だったのです。
美晴の奴、いじめられていることを言って、三好君に媚びるわけでもなく、どうやったら取れるか三好君に聞いているみたい。なに、あの高飛車な態度、許せないわ!
でも、三好君は持ち前の優しさと運動神経で、すぐにモップの柄を使って、上履きを取ってしまった。少しよろめいた三好君の腰に美晴が抱きついた時には、嫉妬の炎が燃え上がったわ。
そんなにしがみ付かなくても、三好君は運動神経がいいから大丈夫なのよ。
それに、美晴が言った冗談を受けて、三好君も美晴に冗談で返して、二人はすごくいい雰囲気です。
イケメンの微笑み、あの微笑みが私に向けられたら、私は心臓を撃ち抜かれて、おろおろするでしょう。なのに、なに、あの当たり前のように自然な二人の対応。
でも、これで美晴は二年生の女子全体を敵に回したわ。この周りを取り巻いていた女子の鋭い目線と剣呑な雰囲気。もう、美晴は私たちが手を下さなくても死んだわ。
それにしても、この雰囲気の中、まったく動じることもなく、モーゼのように人の海を割り、教室に向かうなんて……。
美晴さんの心臓って、鉄でできている?
********************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます