第6話 ――長田君サイド――

――長田君サイド――


 僕は、このクラスになって、窓際の一番後ろの席にぽつんといる。現在このクラスは31人。6列×5段 プラス1で、いわゆる僕は、合コンでいうところの玉子の席にいるわけだ。でも、僕がいるといないでは、三学級になるか四学級になるかで大きな違いになる重要なポジションだ。

 この越山中は、小学校も中学校も一つしかない。ほとんど顔ぶれも変わらず七年間を過ごしている。僕の学年は一二一人、毎年クラス替えがあっても、もう同じクラスになっていない同級生は皆無で、みんな顔見知りになっている。

 しかし、そんな環境の中、新学期になってから、僕の隣には誰も座っていない机と椅子が用意された。

 しばらく、空いていた机と椅子は、どうやら明日から主を迎えるらしい。この越山中で転校生は珍しい。


 今日、僕のクラスに転校生が来た。ハーフみたいな素敵な女の子だ。

 初めて見る西洋人ぽい人に心がときめいた。この子が僕の隣の席にすわる。視線に気付かれないように、横目でちらっと隣を見る。横顔もきれいだ。横顔も整っている女の子ってなかなかいない。

この子と、授業中の小テストの答え合わせや、宿題の答えあわせなど、一緒にすることになるんだ。今までは、一人でやっていたんだけど。


「わからないことがあったら、なんでも聞いて」


 僕は、初めての会話をすべく、休み時間に話しかけようとしたけど、美晴さんの周りには、女の子が取り囲んでいて、とても話し掛けるなんてできなかった。

 それに、取り囲んでいる女子の視線も冷たい。ああっ、お前みたいな身分違い(育った場所が違う田舎もん)が、身の程をわきまえず美晴さんに話し掛けるんじゃねえって、鋭い視線で訴えて来るし。

 おかげで、僕は休み時間ごと、席を追い出され、廊下で小さくなっている。

 よそのクラスからも、たくさんの人が美晴さんを見に来ているが、男子は廊下にいる僕に話しかけてくる。

「なあ、お前のクラスに転校してきた女の子、すっげえ美人だな。お近づきになりたいよな」

「うん。そうだね」

「で、彼女の隣は誰が座っているんだ?」

「……あの、僕だけど……」

「えっ、お前、めちゃくちゃラッキーじゃん。なんで廊下にいるんだ。話に入ればいいのに?」

「いや、女子の目が……。身の程をわきまえろって」

「あっ、そうか……」

 この地域の男子は、みんな純朴で、人見知りである。傷つくことを極端に恐れ、和を乱そうとはしない。男子は遠慮がちに女の子の輪の中心を眺めている。そんな中で、抜け駆けをして、上手く行った場合はまだしも上手く行かなかった場合は、その後の仕打ちや立場が恐ろしい。

「この閉鎖空間(小学校からメンバーがほとんどかわらない)で、村八部は恐ろしいよな……」

 他所のクラスからやって来た男子は、みな、遠くから美晴さんを眺めてため息をつく。

 この日、たった一日で男子には転校生に対する共通認識が出来上がった。

「話し掛けられるまで、こちらからは、話し掛けない。無難に返答する(女子が怖いから)」


 *****************


 翌日、私は、中学校までの1.2キロの道のりを登校している。ちなみに私の住んでいる所は、2階建3DKのアパートで、当然会社が借り上げてくれている。私の記憶にあるガレシア公爵家の王都にある別宅や、東京に住んでいたマンションとは雲泥の差があるアパートである。

 東京のマンションのように、10階から降りる必要はなくなりましたが、山の上にある中学校に行くために、ふもとにある駐輪場から、勾配15度以上の坂道を100メートルくらい登っていくのです。

 なんで、ここにエスカレーターぐらいないのよ。愚痴りながら、フラフラと上がっていきます。この学校の生徒は、健脚を誇るようにさっさと私を抜きながら、この坂道をぐいぐい上がっていきます。

 小さいころから、きっと野山を駆けまわって足腰は鍛えられているのね。


 この坂道、通学するための専用道路で、ふもとの駐輪場兼バス停から、この学校の生徒全員がみんな歩いて登ることになる。自転車をこいで上がれるような坂道ではないためです。

 この中学、学区が町内全域のため、7割が自転車通学で、遠い人は、なんと8キロの道のりをチャリで登校してくるのです。後は、町が出している通学バス通が2割ほど、なんと、この通学バス、無料なのである。都会では考えられない優遇です。

 そして、私のように徒歩通学が1割弱ぐらい。この坂道を、同じ中学に通う生徒に交じって登校しているんですが、私に声を掛けてくれる人は全然いない。

 まあ、クラスメートが、私に声を掛けてくれても、失顔症のため、教室の中ならまだしも、外では誰かもわからない。ここで挨拶をして、また教室で挨拶でもしようものなら、「あら、さっき挨拶したでしょう」と気分を悪くされるのがおちです。


 やっと校門をくぐり、二年四組の教室にたどり着きました。

「おはよう」

 教室に入ると教室にいるみんなに声を掛けたんですが、三々五々、塊を作っている生徒たちは、チラッと私の方を見ると、なにごとも無かったように昨日のテレビ番組の話に話を咲かせています。

 まあ、中学生にもなって、不特定多数を相手に、挨拶をする人はいないか? これは完璧に私のミスです。それにしても校門のところに掲げている「挨拶、日本一を目指そう」は、なんなんでしょう。







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