ガチ悪役令嬢の私は、ハンデを背負って転生しました

天津 虹

第1話 周りに中世風の建物が並んだ広場には

 周りに中世風の建物が並んだ広場には、みすぼらしい服装をした美しい女性が公衆の面前に引きずり出され、断頭台に無理やり押し込められ、その女性の頭の上にギロチンが落ちて来る。

 残酷な場面に思わず私は目を瞑り、すると場面が変わり、鏡の中の他人の自分が、「お前は誰だ」と問い掛けてくる。

 私は悲鳴を上げて飛び起きるんです。これが最近、私がよく見る悪夢なんです。色々なことがあったから、私、疲れているんです。きっと……。


 今、私、美晴杏奈(みはる あんな)は、担任の女性の山本先生に付き従って、新しい環境の中、緊張気味に公立中学校の校舎の廊下を歩いている。

 突然、パパがこの越山町の工場に転勤になり、一家全員でこの山と田んぼしかないド田舎に引っ越してきたのです。越山町って関東から幾ら山を越してきたのよ感じんなの。

 しかもパパの仕事の引継等の関係で、四月半ばの中途半端な引っ越しになってしまいました。

 それにしても町ってなに? 平成の大合併で郡町村は本土では絶滅していたと思っていたのに。東京に住んでいた私がなんでこんなド田舎の中学校に転校しないといけないわけ? パパの転勤が悪いのよね。そう言えばお正月に引いたおみくじは凶だったわ。

でも、この学校の設備は、私が通っていた高校ほとんど変わらないわ。いや学校設備は、こちらの方が随分いいみたい。全教室、冷暖房完備。窓から見えるグランドはバカ広くって、敷地も広い。この生徒数でこんなに広いなんて税金の無駄遣いよね。

 校門まで上がってくる坂道も長くて急で、都会育ちの私では、途中で何回も休憩が必要だったわ。


 ここで、私は一旦思考を停止した。それは、トイレのユニバーサルデザインを見つけたからだ。緊張している中での初めての転校。そして教室での挨拶。そんな注目される中で、授業中「先生、お手洗いに行ってもいいですか? 」なんてとても聞けない。

 私は、前を歩く山本先生に声を掛けた。

「先生、お手洗いに行ってもいいですか?」

「ああっ、そうね……。我慢するのは体によくないから、どうぞ」

「ありがとございます」

 わたしは、先生に頭を下げてトイレに入った。

 この学校のトイレは、和式と洋式がある。私はもちろん洋式派。まだ、公共施設に和式が残っているなんて。私は生まれてこのかた和式を見たことが無かった。正直どう用をたせばいいのか良くわからない。

 そういう訳で、私は洋式に入り用をたして、洗面台にいるのですが、ここの鏡も立派で、別名、化粧室って言われているトイレに相応しい造りです。

でも、一瞬鏡に映った自分の顔に愕然としてしまいました。


 田舎の公立中学校には、前近代な校則が色々残っているみたいで、その最たるものが髪型です。男女とも前髪パッツン、男子は刈上げ、女子は肩に掛からない長さで切りそろえなければならない。

 私も、腰まであった長い髪を、昨日バッサリ、肩までに切りそろえているのです。

 いままであった長い栗色の髪、その髪は軽くウエーブが掛かっていて、サイドも緩く縦ロールが入っていた。もちろんこの髪は生まれながらのくせ毛と髪の色であることは、医師の証明書を学校側に提出済みです。

 さすがに、昨今は、学校で色々問題になっているため、髪を黒く染めろとは言われませんでした。もしそんなことを言うと、人権団体が黙ってないからね。

 私の場合は、生まれつきの個性です。

 母方のおばあさんが、ロシア系のクォターの私は、顔立ちは西洋風で、色も白くて、まつ毛が長くて目元もパッチリ、鼻筋も通って唇も可愛らしい。自分で言うのも何ですが、なかなかの美人さんです。でも、その小顔に乗っているヘアースタイルで私の前の面影が残っているのは、サイドに残る縦ロールのみ、だから、未だに鏡に映る自分の姿を見慣れていないんです。


 鏡と言えば、わたしは、少し前から続けている習慣があるの。

 あの都市伝説、鏡を見ながらお前は誰だと問い続けると、狂ってしまうという伝説の検証を続けているんです。

 別に、都市伝説を信じたわけではないのです。パパの転勤が決まって、私も今までのお友達とお別れして転校することになって、この現実から逃げたかったのか? 精神的にアレになってしまって、やさぐれている時に見たネットのネタをやっているのです。別に、本当に狂いそうになったら辞めたらいいしくらいの感覚で始めた訳なんです。

 まあ、現実逃避ってやつよね。

 しかし、髪を切ってからは、見慣れない自分を凝視していると、本当に鏡の中の自分が知らない誰かに見えるようになってきています。

 そして、学校のトイレで立派な鏡を見た瞬間、それまでに身についてしまっていた悲しい習慣を、無意識に繰り返してしまったんです。


「お前は、誰だ?」


 これは、鏡に映る自分に焦点を合わせるより、その背後に焦点を合わせた方が、よりリアルに他人感が出て、悦に入ることができます。

 そのなんとも言えない感覚を求めて、鏡の中の私に問いかけました。

 その瞬間、鏡の中の私が、私に話し掛けたのです。もちろん、実際には私の口から出ていたのですが……。

「私は、アンナ・ガレシア。アメリーナ王国の公爵令嬢、アメリーナ王国の第一王子、ケルン・アメリーナの婚約者」

 そして、背骨がきしむほどの鋭い痛みが脳天まで走り、頭の中には瞬時には処理できない大量の情報が流れ込んできた。

 そのあまりの量に私はめまいを起こし、思わず洗面台に両手をついてしまう。

 そして、あまりに突拍子もないことが、思わず口からでてしまっていました。

「私は、アンナ・ガレシアの生まれ代わり……」

 私があまりに長い間、トイレから出てこなかったからでしょう。先生が、中に様子を見に入ってこられたんです。

「美晴さん、大丈夫?」

「あっ、はい、大丈夫です!」

 そう、今私は、転校先で教室に向かっている。頭の中でこんがらがっている情報は、とりあえず置いといて、私はやるべきことをやるために、力強く先生に返事をする。

「そう、でしたら早くしてくださいね。朝のホームルームの時間が終わってしまうわ」

「はい」

 私は、いまだに続く頭痛に耐え、先生の後を付いて行きます。


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