第65話 FPS

 基地周辺での任務が終わり、3日程度の沖縄のホテルでの休息を挟んだ後にふたたびシールド隊員への招集がかけられる。

このまま帰れるとは思っていなかったものの、この先の任務の過酷さを想像して誰もがホテルの部屋に缶詰め状態となり、しばしイヤな現実を忘れるため眠ってすごしていた。


 なので集められた隊員たちの顔色はひどく青ざめ、まぶたが重たそうで寝癖も目立ち、任務継続の意思など高まっているはずもなかった。


『さあていよいよお待ちかねの本番、市街地での防衛戦だ!諸君シールドの中でも特に精鋭ぞろいのイージス称号を与えられた君たちには特別重要な役割を与えるから楽しみにしていてくれ!ハッハー!』


 また突然見たこともない隊長に呼び出され、高圧的な態度で命令を受ける、


 市街地での攻防など、これまでの経験から連想するとその言葉だけでも恐怖でしかなかった。

私と共に並んでいたシールド隊員たちは10名ほどいたが、誰もが返事もまともに返せず意気消沈してひどくひ弱な人員に見えた。

どこが精鋭ぞろいなのだと。


『今度は相手もそれなりに強力で本格的な部隊の奴らが来るぞ。はっきり言おう、××国よりの潜入部隊の奴らだ。

まあ見た目や動きからして明らかにその筋の奴らだって分かるだろうがな。相手も自動小銃や迫撃砲など、強力な武器をパターンを用いて攻勢を加えてくるだろう。赤いマークに星を付けた奴を見つけたら容赦せず撃ち殺せ!ためらうなよ!分かったな!』


『・・・・・いっ、イエッサー!』

 聞きたくもない言葉を伝えられ、隊員たちは目をふさいで現実から目を背けようとしていた。無理にでもかけ声をあげないと気持ちが折れる感じだった。


 私は今度こそ死ぬかもしれないと思い始め、いかに逃げるか考えを頭に巡らしていた。


 市街地での任務途中、もしその作戦地域から逃げ出せば一体どのような罪に問われるのか?それならもういっそこの時点で逃げ出した方がいいのでは?

あらゆるパターンで任務を離脱する方策を巡らしていた。


 しかし今は国家非常事態。

空港は防衛軍の部隊に抑えられていて一般の旅客に紛れて帰るにはあまりにリスクが高く、捕まれば懲役刑は免れまい。


 もしかしたら自分は逃亡不可能な任務をおしつけられるために、沖縄という監獄に送られたのでは?ようやくそのことに思い至り始めていた。


 そもそもこのC3部隊に入隊した時点で、ここまで本格的な軍人らしい仕事をやることなど想定していただろうか?もしこんな事態に突入することが分かっていたなら、私は絶対にC3部隊などに入りはしなかった。


 考えてもキリがなく、いつからレールを踏み外したのか分かったとてそのポイントへ戻れるわけでもない。勇気のいる行動力もなかった私にあるのは有限の時間ばかりで、それもただむなしく過ぎ去っていった。



 とうとう任務開始の時間となり、ホテルの入り口に軍の装甲バスがやってくる。黙々と積み込まれていく隊員たちに続き私も中へと入っていった。


『よっ五島。今度の市街地戦ってのはおもしれえぞ~!ほとんどゲームだから。だがな、はっきり言って今度のはけっこうムズいと思うぜ。どこか分からないとこから弾が飛んできてその相手を探って倒すんだからなあ。

お前FPSやったことあるだろ?まさにそれな。倒した時めっちゃ爽快だからアハハハ!』

 隣に座る見慣れた機動隊員がいかにも楽しそうに任務への希望を語っていた。


 口がピクピクと引きつっていたので強がり半分だろうとは思うが、こいつはゲームのやり過ぎと軍活動の連続で、頭のネジが外れ薬でもやっているのかと思えるほど挙動がおかしかった。

目を上下にやりつつ視点が定まらない様子で、終始一人で話し続けていた。



 大きな県道を走り、ほどなくして市街地と思しき場所に到着する。


 バスを降りると既に辺りでは、パパパパパパンッ!という発砲音が響き渡っていた。そこかしこの建物からは煙の柱が何本も上がっている。


 聞くとそこは元はウラゾエという繁華街であったらしいが、今や廃墟となったビルや、潰れたレストラン跡のガレキが散乱するゴーストタウンといった様相で、荒れ果てた光景が広がっていた。


『よしっではまず敵勢力の位置をあぶりだす!

シールド隊員たち陣形を組んで前へ出ろ!』

 

 隊長からの指示を受けシールド隊員が前へ進み出るはずが、2人程度しか隊員は出てこなかった。

ほとんどの隊員は辺りをキョロキョロ見回し、ドーン!!と爆発音がするたび肩をすくめておびえている。


『おいっどうした!?シールドぉ!お前ら盾の役割だろうが!特別なイージス称号受けてんじゃねえのかよぉ!特別手当もらってんだろう!?さっさと前へ出んかあ!!』


 数人のシールド隊員が後ろで控える警備局や機動隊の人間に暴力を受けることでようやく我を取り戻し、重たげな足取りで前へと進み出た。

そして互いのシールドをびっしりと隙間なく揃えて、陣形を組んで隊長の前で固まる。


『よしっ揃ったな。だがお前らまだその防御陣形はちょっと早いなあ!今回の市街地戦では少し役目が違ってくる。お前らシールドにはこの辺りの指示する範囲を散り散りになって動き回り、それぞれの場所でシールドを掲げてもらいたい!

それがこの度のシールド隊員の任務である!』


「えっ?というと、つまり私どもの役割は?単純に敵の攻撃を受け止めるわけではなく、敵を引き付ける陽動ということでしょうか?・・・・そんなまさか」


 うすうす隊長の指示の意図は感じていながらも、今の説明が回りくどいと感じた私は反射的に隊長への疑問を自分なりに要約して返す。あり得ないと言った口ぶりで。


『そうだその通りだ、お前は理解がよくていいなあ五島!そう、この市街地での諸君らの役割は、敵の居場所を発見するためのシールドとなることだ!

敵の攻撃にさらされる心配はあるかもしれんが安心しろ、敵の攻撃を受け次第、即座に我々も機動隊が応戦して殲滅してやる!最初の一撃だけどうにか耐えてくれ、頼む!』


 ガタンッ!と音がして、明らかに力が抜けてシールドを手から落とした者がいた。隊長からの任務説明の言葉を受けて気力を失ったようだ。

 力なく腕は垂れ下がり、口をぽっかり空けていた。


『フンッ腑抜けが。よーしっではそろそろ始めるとするか。

まずは向こう側、東へ300メートルほど離れた居酒屋の駐車場付近へまず一人走れ。

そして反対側の300メートルほど向こうの公園跡地へ向かってもう一人、その間を残りの隊員5人ほどが思うままなるべく敵の目を引きやすいような感じで、考えて動いてみてくれ!』


 力を失った隊員は無視して、部隊長は我々に指示を飛ばす。


 目線の奥では生気を失った隊員がこん棒で頭を小突かれているのが見える。さらには顎を蹴られて・・・・・、私は目を逸らした。


 まず11名いる残りのシールド隊員から7名が出動することとなった。


 円陣を組んで相談する構えとなったが話し合ってもどうせキリがなく、また暴力を受ける形になってはみっともないので時計回りにまず7人が動き回ることになった。


 私もそこへ含まれていた。


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