第64話 禽獣のごとき振る舞い
『残念だがこれが現実というものだ、争いが起これば誰かが傷つく。無論我々がそうなっていたかもしれない。諸君は気を強く持つことだ、
でなければ生き残れんぞ。既に息を引き取っている者は冥福を祈って手を合わせ、死体収容トラックへと積み込め!ケガをしている者や逃げ遅れた者は近くに用意されている収容者用の施設がある、そこまで誘導し連れていけ!』
我々シールド隊員はしばしの休息を取ったのち隊長から次の指示を受け、重い体から力を振り絞り、付近に散らばる死体を一か所に集めトラックへと積み込む。
他の残っていた反乱分子たちは近くの収容施設まで連れて行くことになった。
『なああんたらさ~何かおかしくないか?やりすぎだろ!私らがなにしたってんだ?た~だ自分らの住む場所を返してくれって、何もおかしなことを言ってないのに~。同じ国民とする人たちへの仕打ちかこれが?』
反乱組織の人たちを連れて歩く途中、目をゴム弾で撃たれて片目がひしゃげた男性が私に訴えかけてくる。
『さっきだってなんだあの銃撃の嵐は!?石や弓矢やビンを投げた相手にすることか?皆殺しにでもする気かあー!抵抗する人間は徹底排除するってことなのか~?
話しさえ聞いてもらえない我々は一体どうしたらいいんだ?
しょせん我々のことなんか同じ国民とは思ってないんだろう!ええっ違うかっ!?』
「うっううっごめんなさい・・・・・」
『あんたが泣いて済むんか!?隊員のくせに!本当に泣きたいのはコチラの方じゃあっ!』
私は情けなくも涙をこぼしてしまった。
この人たちの言うことが正しいのかよく分からない。ただ命じられるがまま行動しその結果無残な結末を導いてしまった、自分の愚かさ、情けなさから。
ここで起こったすべてを、私はただシールドの内側に隠れてやり過ごそうとしていた。
直接相対し関与することで、きっとこの人たちの一生を捻じ曲げてしまったのに、何も見てもいなかった、見ようともしなかった。
わが身可愛さに盾の殻にこもっていたせいで、この人たちの言うことが本当に正しい事なのか、隊の言うことが正しい事なのかもよく分からない、
そのことがあまりに情けなく、自分の置かれた状況も悲惨過ぎて無性に悲しみが込み上げてきた。
それから約1週間、私は同じく基地周辺の警護任務にあたり続けた。
攻撃があると予測された地点を15名程度の部隊で巡回し、不審な集団を見つけるとその前に隊員たちが集まり盾を構えて防御陣形を取る。
そしてその後ろでは警察からなる機動隊員が小銃を構えて臨戦態勢を取った。
反乱勢力からの攻撃は石やボウガン、次第に発砲音が聞こえ、銃撃が混じるようになった。
私はそれらの全てをシールドを強く握りしめ身を隠し続けていたので、どのような攻撃を受けていたのかはっきりと断定はできないが、
ガガガガガンッ!という衝撃を腕に感じ、盾を持つ手が折れそうなほどだったので、おそらく銃撃を受けていたのだと思う。
時には頭に気を失うほどの衝撃を受けることもあったが、恐怖で身をすくめ続けていたおかげかなんとか意識だけは保つことが出来た。
なんとかこの一日をこの過酷な現場から生きて帰れますようにと、そればかり祈り続けた。
シールドの内側でシールドに全てを託し、頭上をとびかう衝撃音やで頭や腕に受ける衝撃を感じながら、極限まで辛くなると安西さんの顔を思い浮かべた。
彼女の声や表情、言葉を思い出し懸命に自分を励まそうとした。もう遠くの記憶になった両親や、かつての友人たちの顔は薄れて全く思い浮かばなかった。
ただ安西さんの顔や言葉を思い浮かべると、心が強く持てる気がしていた。
彼女には指示を受ける形で身を預け、時には抱きしめられおかしな薬を盛られて、暗示をかけられていることにも気付いていた私だが、そんな風に彼女に操られるまま過ごす毎日も、悲惨な状況下ではひどくなつかしく感じられていた。
一つの現場での任務が終了する際、
『状況終了!』のかけ声が掛かると共におそるおそるシールドから顔を出すと、いつも周りには死体やケガ人たちがたくさん転がっていた。
最初は気味悪く、そのおぞましい光景に嘔吐や嗚咽を漏らしていたシールド隊員たちも、次第に何の反応も見せなくなっていた。
モノを片付けるようにして人間たちの重たい身体を運び処理へと回している作業中は、同属の生き物をモノ扱いしている状況のおかしさより、その日の任務がやっと終わるんだというホッとした安堵の感情の方が強く勝り、リラックスした状態でおこなえる作業となっていた。
私はなかなか状況に耐えきれそうになかった。
自信のある小説に出版の目途がつき、それに尽力してくれた大切な女性を待たせたままの私には、この命がけの任務への負担はより重たいものに感じられていた。
任務中は何度となくうめき声を漏らし、
任務が終わると周りへ異論を吐くようになっていた。
「こんなこと一体いつまでやらさるんだ!?もういいだろう!いい加減開放してくれよ、反乱分子のやつらもかなりの数打ち倒したはずじゃないか?」
私の後ろにいつも控える、同年代と思しき機動隊員の一人との雑談に紛れてしばしば任務への葛藤を吐き出していた。
『フッお前は感受性が強すぎる、ものは取りようだろう。アイツらは野蛮人だ。
俺たちに襲いかかろうとする敵キャラクターだと考えれば倒すことに躊躇いなどなくなる。モンスター1匹死んだところで悲しむ奴がいるか?しょせんゲームで経験値を稼げたと思えばいいんだよ』
その隊員はよくスマホを触りながら人と話し、休憩していた影響もあったのかもしれないが、あまりにもあっさりと物事に拘泥しない返答が返ってきて、私はまたよく分からなくなってしまった。
一週間も基地周辺での攻防を繰り返していると、そのうち反乱勢力の人間は姿を見せなくなっていた。
相当数駆除できた成果なんだと思った。
『よしっ状況終了!いい報告も上がってきている。そろそろ基地周辺での防衛任務は一旦規模を縮小することになるだろう。
隊員諸君、いやっ大変な労力を払った任務活動ご苦労であった!』
『おおお~~~~~っ!!』
部隊長からの任務完了の達しを受け、シールド隊員たちからはこれまでの行動中はなかった大きな歓声が上がった。
私もツラい任務をやり遂げた達成感と感激から、全身の力が一気に抜けその場にへたりこんでしまい、汗に交じって涙がこぼれ落ちていた。
それぞれの隊員たちも達成感や生き残れた嬉しさから涙をこぼしていた。
そして喜びの感想戦を、そこかしこでおこなっていた。
『いやっもう俺何度詰んだかと思ったことか~。やっとあのゴミども消えてくれたか~!いや~マジで嬉しいよ~人生最大の勝利だよ~母ちゃんに報告しよう!』
『ホントいつまで湧いてくんだこの虫けらどもっ?って泣きそうになったぜ。しかし相当こっぴどく駆除してんだもんな~。そりゃいつかは駆逐できるはずさ』
「はっはははははっ・・・・あはっ」
人間をモノ扱いすることに抵抗を露わにしていたはずの隊員たちは、今やその人たちを喜んで害虫扱いし、駆除した成果を誇っている。
私もほとんどそのようになりかけていた。
10数回も敵からの攻勢を受け続けて命の危機にさらされつづければ、敵対勢力のことを虫扱いすることなど躊躇いはなくなっていた。
自分が、この国が、そして世界がすでに引き返しのつかないところまで狂ってきていると、だんだん思うようになっていた。
『あなたは今度の任務でこの国のおぞましい実態に触れることになる。いいですか?自由の名のもとに人を誘導し、崖から突き落とすこの国の状態はいかにもおかしい。おかしな国の行動は是正されなくてはならない。
五島さんもなるべく早くおかしな活動は辞めることですね。そして何が正しいのかよく見極めることです。いいですね、判断は的確にですよ』
任務へ向かう前に仁村くんからかけられた言葉を思い出していた。
『自由というものは存在しません。
全て規律や規則があってこそ人の営みは繁栄するんです。なのにこの国や自由主義を誇る国の人間は狂っている。自由の名の元に全ての国民を良いように操り、お金や資産、愛する人、あげくに命まで一部の人間が全て奪おうとする。おかしくないですか?
えっ安西さんも?・・・・・そうですか、まあ今度ばかりはイヤというほど実感しますよ。
あっまだ死なないでくださいね、あなたにはやくわりがありますから』
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