第53話 斥候任務

 ・外国救助隊の動向調査


 特殊任務を帯びた我々6名のシールド隊員は、通常の復興作業には加わらず本隊から分かれて独自の行動を開始していた。

 相手に正体がバレてはならない機密性を帯びた任務のため、身元が分かる隊の制服などは着用せず、各々が一般のボランティアを装って復旧作業を手伝う。


 作業はあくまでフリなので、その間、敵性国家のスパイ救助隊の動向に目を光らせなければならないはずなのだが、誰もがそれを無視するかのように作業に没頭していた。


 その実、疑わしき一団に出くわして、任務をやらざるを得ない状況になるのが怖かったのだろう。だからみんな下ばかり向いてガレキを拾い集めていた。


 このまま復旧作業が進み、いずれ諸外国の救助隊も撤退したらこの任務もうやむやになるんではないか?と、心の片隅に淡い期待を抱いていた。


 そんな思いも虚しく、活動2日目には早くもその疑わしき集団を発見してしまう。


 『ミンバイラー!ジャーヨ!』


 我々が作業を行っているすぐそばから、明らかに例の共産主義圏のものと思われる言語が聞こえてきて、皆に動揺が広がる。

無視しようにもそれは段々と近付き、ついには我々はその一団と真正面から向かい合ってしまうことになった。


『ジャーヨ!ニンシァン・・・・・』

『どうもーこんちわー』


 こちらのシールド隊員は緊張が隠せずに、全員直立不動でうすら笑みを浮かべている不審さ全開の態度であったが、我々のことは一般ボランティアと認識したようで、彼らは軽く言葉を交わすと通り過ぎていった。


『おいっどうすんだよ!二人のうちどっちかやるんじゃなかったのか?』

通り過ぎてすぐに年長のいくじなし隊員が、実行役に任じられた私ともう一人の大人しい羽村くんを責めた。


『まあまあ俺らがどうこう言うのは筋違いですよ。彼らのタイミングに任せましょうや』

 他の既婚者隊員が間に入ってくれたが、彼もまたどこか人ごとで笑みを浮かべて、私たちの行動を楽しみに待っているようだった。


 先ほどから所持している通信機にバイブレーションによる振動が伝わってくる。今が動くべき時、任務開始の合図を教えてくれているのだ。


『君たちの任務については我々も逐一その動向を注視し、サポートはおこなう。だから安心感を持って任務へ取り組むがよい!』


 任務にあたって上官から伝えられていた言葉が、大きな重しとなって我々の心にのしかかっていた。

 

 どこぞで見ているC3部隊の人間の監視があるから、はっきりと今がやらなければならない状況なのだと誰もが分かっていた。



 付近で重機やスコップ、ジャッキなどを使って作業をしはじめた共産主義国の救助団。私たちもそこから少し離れた廃屋の陰に陣取り、その様子を眺めながら確認できる距離で作業を行う。


 私は実行前の最終確認を羽村くんと練り合わせることにする。


『どうする、僕らのどっちかがアチラの人たちにもう一度声をかけて、そのスキを狙ってもう一人が撃って逃げるってのが作戦としてはアリだと思うんだけど・・・・』

 まず私が適当な作戦を言っている間に、彼から妙案が出ることを願っていた。


『ええ、ですね。じゃあそれでいきましょう。ボクがお手伝いを申し出る感じでアッチの連中に近付いてみますんで、そのスキを五島さんが狙い撃ってください、お願いしゃーす』

 しかし、なんと彼はこれを実行役を強制的に私に受け渡す好機と見たのか、軽くハイタッチすると早くも集団に近付いていこうとする。

「いやっちょっと待って!羽村くんっ・・・・」


 私の呼び止めも聞かずに、少しおかしなテンションで集団へ近づいていく羽村。

私はとっさに腰の銃に手をやり、ここで彼を撃ったらどうなるだろうか?という考えが少し頭によぎっていた。


 だが彼があまりに一直線に進んでいくものだから、私も仕方なく実行に向けて息を整え気合を高める。


「はあ~、はぁ~やるぞ、やるしかないんだ・・・・・」

イヤが上でも私の緊張感は高まり、腰にあったレーザーガンを押さえる手が震えてしまう。


 追い込まれた状況に意を決した私は、羽村が進む方からは斜めに外れて進み、集団から死角になる位置の低いカベを見つけて、そこに半身にしてレーザーガンを片手に陣取った。


 羽村がさっそく集団の一人に接触し、なにやら笑顔で話しかけているのが見える。

私はカベから身を半分ほど出してタイミングを図るが、まだ銃は構えない


 その時ふと、よからぬ考えが頭をよぎる。


 もしこの状況であの怪しい連中を撃ったら、それこそ一番そばにいて話しかけている羽村も危ないんじゃないかと、私はそれも危惧し始めていた。


 するとそのことが彼の脳裏にもよぎったのか、羽村がこっちへおびえた視線を送り、しかもウインクをしている。


 なんて馬鹿な野郎だ!

それではあからさまに私たちに何か含みがあるのがモロバレじゃないかと。彼は土壇場で自身の身に危険を察知したのであろう、全てを私に押し付ける格好で、自分への注意を払いたかったに違いない。


 私は銃を背中に隠しながら、憤りのあまり顔が引きつってしまう。


 当然怪しげな外国人集団の数人も私のことに気付き、コチラへ近づいてくる。

「まずい、どうしようか。もう撃てない・・・・!」

 私は追い詰められていく状況に、パニックになりかけていた。

もう真正面から特攻の覚悟で撃つしかない、


 目を瞑り色んなことを思い返すと、浮かぶのは小説のことと安西さんのことだった。

多分その二つが、今の私の心残りと生き甲斐だったのだろう。



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