第34話 恋愛パーティー

『いいか、君たち班長に選んだ5名は皆独身だ。そして女性陣は7名もいて彼女たちもまたシングルだ。あくまで今はという意味でだぞ。過去にはバツがついた人も一人いる。仮に分かっても絶対言うなよ~オホン!だが今の時代女性の方が多い合コン、いやっ交流会なんてめったにないのだから感謝すべしっ』

『ハイッありがとうございまあす!』


 この合コン交流会を前にした男性陣に対しては、講習を担当していた初老の男性から、いやに熱く激励の言葉がかけられていた。


『我々がなんで君たちにこんな浮ついたイベント企画したか分かるか?

なるだけ人生の意味を感じてほしいからだ。好きな人を見つけ、家族を作り、子を作る。それが人間のやるべき最も崇高な役割なんだ。

君たちのように真面目で優秀な遺伝子を持ってそうな男性、ぷふっ!女性だからこうして我らも自信をもって引き合わせられるのだっ、ふふぅ!だから貴重な機会は逃さず、任務のつもりで懸命に励めよー!よしっガンバレ~ブフフッ』


『ハイっ頑張ります!』

男性5人組の声が奇妙に揃う。


 いつからこんなに何も考えず無条件に、

目上の人への感謝の言葉が出るようになったのだろう?

私は自分が環境に適応しすぎている不思議さを感じながら、この会に関しても楽しみというよりは、少々不気味さを感じてしまっていた。


 なにしろ男性講師の言葉は激励というよりは露骨にカップルを作れという趣旨のもので、公の機関が公共事業と称して集めた男女を使い、さらに選別までして婚活イベントを主催したも同然なのだから。


 そのせいもあって、おそらく男性陣から見る女性陣それぞれの姿はもはや一個のメスとして、物色の対象としてしか見えていないに違いない。

 交流会といいながら皮肉なものだ。


『C3隊員のみなさん、これまでの講習・訓練ご苦労様でした。今回は本格的な任務を前にして一度皆さんの心を休める機会を設けようと、これまで分かれて講習を受けてきた、男性・女性それぞれの代表者たちによる親睦の集いを企画させていただきました。どうぞ今日は羽を休めて楽しんでください』


 おそらく女性側の指導係だろうか、Tシャツにカーゴパンツ姿の至って地味なおばちゃんから今回の催しの趣旨説明がもたらされる。


『お席の移動は10分ごとに右にずれていってください。それぞれ一通り会話が終わるとあとはフリータイムというカタチで自由に交流を楽しんでください。

お食事はバイキング形式となっています、お酒も少々ありますのでそれもご自由に』

実にベタな見合いイベントみたいな説明がもたらされる。


『それでは、皆さんそれぞれにグラスはお持ちでしょうか?』

 あくまでお決まりの型をなぞり続けるおばちゃん。まるでままごとのごとき滑稽さに、この時点で気分はすでに萎えかけていた。

「では・・・・・カンパーイ!」

『カンパーイ!』


 男性、女性それぞれが唐突に引き合わされた目の前の異性とグラスをぶつけ合い、交流会は始まった。


 女性陣にも同じように、冴えない連中同志でつがいを見つけろ的な言葉がかけられているかどうかは分からないが、それは会が進むうちに判明するだろう。 

 それぞれが獲物の物色を開始する。



 まずはテーブルを挟んで向かい合った女性との会話が始まる。

今私の目の前には、上目づかいで髪をかき上げながらコチラの様子をチラチラ窺ってくる女性がいる。


 見たところ歳は私よりも少し下、20代ぐらいに見える。

髪は茶髪でウェーブがかかり、目はパッチリとしてまつげが長い。


 さらにはこのイベントに対する意気込みの表れだろうか、肩を露わにした黄色のワンピースに身を包んでいて、微笑みを見せている。


 こんな寄せ集めの隊員たちによる合コンでは全く期待していなかったので、失礼かもしれないが意外に可愛らしい女性だと感じられていた。


 ただ角張った顔つきでスタイルも悪く、私としては好みのタイプではなかったが。


「どうもアタシは坂巻といいますです。えーっとあなた様は?」

自分の胸元の名札を示しながら名乗る女性。上目遣いで男心をくすぐる喋り方をよく心得ている。


「あっと僕は五島といいます。どうも坂巻さん」

私は気持ちが乗り切れていないうえに、意外に可愛らしい普通の女の子相手に、とっかかりに何をしゃべろうか悩み、少し考えてから話し出す。

「うんとー、どうです?坂巻さんはこの隊員活動には慣れましたか?」

もじもじしている坂巻さんを見かねて、とりあえず無難な隊員活動の話から振る。


「えっええーえ~っと女子隊員たちはまあ、色んな人がいてしんどいけど、頑張ってま~す!アハッ♡」

「はあ、そうですねハハッ」


 一言交わしただけで、なんとなく感性的に合わないかも?と思った。印象としてはそう悪くはないが、坂巻さんはこちらの投げかけに特に自分の意見は言わず、質問を返すわけでもなく、ただ可愛らしい自分を前面にアピールしただけだったからだ。


 なんとなく会話は弾まないかもなと瞬間的に思ってしまった。


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