作品メモ

「擬態女」について

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054917549444

 ↑先に本編をお読みください!


 こちら、第二回こむら川小説大賞で大賞をいただきました!やったー!うれしい!


 作品の話とズレますが、そもそもこむら川参加のきっかけは、フォローしているドントさんが「面白そう」とツイートしていたからでした。

 テーマ「擬態」というのを見て、お風呂に入りながらネタを考えたのがこちらです。

 短編ではほとんどプロット書かないマンなので、今回もプロットはないのですが、お風呂上がりに忘れないように書いたメモがあったので掲載します。


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 擬態女


 女が帰ってきてとてもくたびれている様子


 友達との通話などで彼女は擬態していることがわかる

 生きていくためにせざるを得ないと言う


 ある日、なにかのきっかけがあり彼女は擬態をやめる


 擬態をやめた彼女が明るく出て行った部屋で、ソファから女が出てくる

 生きるためにソファに擬態をする女

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 以上です。

 あまりに簡素……まあ実際この筋自体はこの程度の話なんですよね。

 これだと面白くないので、自分がどういう思考のプロセスを踏んだか、ちょっと思い出しながら整理してみました。


●筋立てまでのプロセス


 たしか、まず「擬態」という言葉の意味を調べたような気がします。

 言葉の意味はかなり気にする方です。主催者の意図とズレないように、一旦辞書的な定義などを調べました。


 擬態【ぎたい】

 他の物に様子を似せること。狭義では、動物が他の動物や周囲の物に似た色・形などをもつこと。


 そこから更に「動物が他の動物や周囲の物に似た色・形などをもつ」目的は何か? と調べたり考えたりすると、「自衛・もしくは捕食などの攻撃のため」、それを抽象化すると「生きるため」という目的が導かれました。

 なので、擬態を「生きるためになにかを装うこと」と定義しました。


 ……というのは振り返ってロジカルに説明しているだけで、実際にはこういうことと筋についてをふわふわと脳内で同時進行しています。


 筋立てについては、どんでん返しにしよう、というのは最初のほうで思っていた気がします。小さい擬態と大きい擬態の入れ子構造にしよう、みたいな発想です。

 闇の評議員・謎のストクリスさんが「叙述トリックを仕掛けられたいミステリー好き」と書かれていたのも頭に残っていた気がします。

 小さい擬態については本当にわかりやすい、スラング的な意味での擬態にしよう、たとえばひと昔まえに流行った女オタクの「一般人」擬態とか、と最初に考えたのですが、本当はここは変えるつもりでした。後述します。

 大きい擬態については、叙述トリックが念頭にあったこともあり、割とすぐに今回の仕掛けにたどり着きました。もちろん乱歩の人間椅子そのままですし、言ってみれば使い古された手法ですが、小さい擬態で撹乱するのと、3000字程度のSSでどんでん返しをやるならむしろシンプルなものが良いだろうと思いこの方向性で決めました。


 また、百合にしよう、とも早い段階から思っていて、それは謎のイヌ亜科さんが「巨大感情が大好物」と書かれていたからのような気がしますが、ここは不発に終わっている気がします(わたしの「巨大感情」の解釈がおかしかったのかもしれない)。


●執筆にあたって意識したこと


 さっきのメモ書きが全てなので、あとは書きながらのチューニングです。

 意識したのはとにかく地の文の描写ですね。

 ソファ女の知覚できる範囲を音、振動、ソファから見える範囲、と定めてなんとかそれに収めつつ不自然にならないように……ということが全てでした。

 読み直すと、間取りや歩の行動パターンを把握しているので、実際には見ていなくても理解できる、というところも含めて書いてますね。


 個人的に、視点の統一ができていない小説がめちゃくちゃ苦手なんです。通常このパターンなら三人称であっても視点取りは歩になるはずなので、歩が知覚できていない「下地をつけずにいきなりファンデ(それが普通でない)」とか「後ろの髪は巻けていない」とかは、書けないんですよね。それをあえて入れる、とか。

 これは、「こいつ文章下手くそかよ」と思われるリスクが非常に高かったのですが、初心者歓迎のこむら川だからできたトリックという気もします。まあ初心者なんだな、と思わせてそのまま読ませておいて……ということですね。


 ソファ女の感情は出せないのですが、唯一感情的な表現として出したのが「頑なに蓼はるかをフルネーム呼び」ですね。これはちょっと気に入っています。歩と仲がいいので気に入らない女、なんですね。


●反省点


 反省点としては、前半の歩の擬態の話自体が、別に面白くはないという点ですね。「女オタクの擬態」って、めちゃくちゃ古いじゃないですか。作中ではるかも言っていますが、「今、令和ぞ?」って話です。だから、当初はこれを変えようと思っていました。

 不必要なをしていて、あっけないきっかけでそれをやめる、という筋自体は設定次第ではもっと面白く、いい話として書けたと思うのですが、どうしてもその「ちょっとしたきっかけでやめられるけど本人はやらなければと思っている擬態」が他に思いつきませんでした。

 あとは、わたしは二次創作界隈出身ですが、実際にはあまりオタク文化に詳しくないというところがあり……アニメも漫画もゲームもラノベも通ってないので、歩とはるかの会話は完全にイメージで、実際のオタク(自認)のひとから見たら失礼にならないだろうか……というところがかなり不安でした。今の所そのようなご指摘はいただいていないので、良かったな……。


 そしてこの作品は「どんでん返し」一点に集中していて、エモが全然ないな、というところも反省点です。ソファ女から歩への異様な執着はありますが、バックグラウンドが明かされないため読者の感情を揺さぶる「巨大感情」にはなりえませんでした。

 本作投稿後、他の投稿作品を拝読し、テクニカルだけではなく、もう少し叙情的な話を書きたいな、と思ったのが次の「アンドロイド〜」につながります。


●いただいた講評について


 すごく褒めていただいて……大変恐縮です! ストーリー自体は解釈の幅の余地がない、シンプルな話だったと思うので、言っていただいた点もまさに意図したとおりでした。

 わたしは映画を見るのが好きなのですが、「この人映画がうまい……!」という監督を好きになりがちなのです。なので、「小説がうまい」と言ってもらえるのはわたしはめちゃくちゃ嬉しくて……ありがとうございます!

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