近くて遠いキミ

和泉秋水

近くて遠い彼女

 都内某所の駅にて僕は通学のため電車に乗り込む。今はまだ空いているが後から人が増えるので窓際に寄る。

 ガタンゴトンと揺れ電車は走る。

 そして十数分してとある駅に停車し雪崩のように人が流れ込む。僕は入り口とは反対の窓際に詰め自らのバックを抱え込む。

キキっーーーーー

 ちょうど窓から反対側のホームに電車が停車するのが見えた。その電車は僕が乗っている電車とは真反対の方向に進む電車だ。

 そしていつもこの電車にあの子が乗っている。

「〜〜ッッ」

 彼女と目が合う。僕は咄嗟に目を逸らす。彼女も目を逸らしたようだ。

 それでも僕はゆっくりと彼女を見る。

 彼女は肩まで伸びた黒髪の大和撫子な可愛い女の子だ。僕と同じ高校生だろう、制服を着てリュックを前に抱えている。

 僕の乗っている電車と彼女の乗っている電車は数十センチほど離れている。近いようで二枚の窓ガラスが僕たちを隔てている。

 彼女は慌ただしくリュックの中を漁り出す。どうしたのだろうか。

 彼女はリュックからノートを取り出してこちらに見せてきた。

『私は、月乃影高校の一年生です。名前は小林花音こばやしかのんと言います。また明日名前を教えてください。』

 ノートには綺麗な文字でそう書かれていた。

 僕はコクンと頷く。

 ちょうど、僕の乗っている電車が発車し、彼女と遠ざけられていく。

 僕はまた明日ノートを用意して彼女に名前を教えよう。

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