第2章 5
「改めて、今日はどうしようか?師匠が帰ってこないなら西山へ行ってみるのも手だと思うけど」
「西山の捜査に関してはしばし待つのじゃ。巣があった場合危険じゃから、出来れば他の班と予定を合わせておきたい。それに、一人で闇雲に歩き回っても効率が悪かいしの」
「ヤオヨロズにレーダーがあるじゃん」
「アレの問題点はお主も分かっておろうに」
喰らうモノの生態は未だ不明な部分が多い。
そのため喰らうモノだけを見つけ出すレーダーというものはまだ試作段階の域を出ていない。
特に地球に潜んでいる喰らうモノは大体において反応が小さく、エデンに比べて発見できる範囲も精度も更に低くなっている。
「あ奴ら、色々な物を吸収するからコロコロと体質や性質が変わるからの。勇者の中には奴らの発する気配、あるいはオーラの様な物が見える者もおるし、リョウのように異常に気配察知に優れている者もいる。じゃが、まだまだデータ不足でシステムとして構築するのは難しいからのう」
「茶々も師匠みたいにバッと見つけられればいいのになぁ」
「ない物ねだりをしても仕方ないのう。上手く『消失点』が見つかれば良いのじゃがな」
消失点とは喰らうモノがナニかを喰らった場所のことである。
喰われたモノは、その存在を消され、勇者や使徒のような『異世界に関わりがある人間』以外の記憶からも消えてしまう。
だが、それは完全な消失ではない。
喰われたモノが完全に消化されるまでの間、その場所と喰らうモノの間には因果という見えない紐で繋がれている状態になる。
つまり、その紐を見つけ出せれば喰らうモノの足取りを追う事も出来る事になるのである。
もっとも時間が経ってしまえば、その紐も辿るのが難しくなるし、消失点は喰らうモノと違ってレーダーなどで見つける事も出来ないので発見難度はかなり高い。
「でも消失点だって見つけようと思って見つかるものじゃないでしょ?」
「言ってみただけじゃ。本気で消失点を探せなどとは言っておらん。無論、気になる噂話でもあれば別じゃがな」
喰らうモノに喰われたモノは存在が消える。
だが、喰われたモノと繋がりがある者の中には、その突然消えたモノに関する記憶が僅かに残っている事がある。
そういった記憶の違和感を誰かに相談するうちに『奇妙な噂』として街に出回る事があるのだ。
「昨日まであったモノが無くなっている」「○○の先に見たことがない風景が広がっていた」「○○の家族(友達)が行方不明になった」などなど。
無論、大半はただの噂に過ぎないのだが、しかしその中に偶に本当に喰らうモノ絡みの物があったりするので馬鹿には出来ない。
そして勇者ギルドでは、そういった噂話を集める情報サイトを秘密裏に運営していたりするのだが。
「境山町に関する噂も今の所一つもないし当てにすべきではないな」
「人に聞くっていうのも無理があるしね~。やっぱり地道に……あれ?」
「どうしたのじゃ?」
「うう~ん、そういえば朝に奈々が何か変な事聞いてたなっと思って」
「ほう、あのしっかり者の妹君が茶々にのう。よほど切羽詰まっておるのじゃな」
「まるで茶々が当てにならないみたいな事言わないでよ!……まぁ、確かに茶々の方がいつも頼っているけども」
「自覚はあるんじゃな。それで妹君はなんと言っておったのじゃ?」
「……ええっと?」
「まさか憶えておらんのか?」
「いやいやいや、憶えてるよ!……えっと、その、確か、そう!ゴミ捨て場!」
「ゴミ捨て場がどうしたのじゃ?」
「……さぁ?いや、そんな呆れた目で見ないでよ。本当にそれくらいしか聞いていないだから!」
「まぁ、よい。ゴミ捨て場とはこの学校のかの?」
「多分そうだと思う。ちょっと気になるから見てから帰ろうか?」
「すぐ近くじゃから大した手間でもない。茶々も偶には姉らしい事をしておくべきじゃろう」
「だから、茶々はちゃんとお姉ちゃんしているって!こら、姿を隠すな!」
「良いから早く行ってみようぞ。案外面白い物が見つかるかもしれんしな」
ティアーネに急かされ茶々は倉庫から出て、直線状にあるゴミ捨て場へと向かった。
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