第1話 神に見捨てられた私
私は県立N高校に通う女子高生。
名乗るほどの存在感もなく、毎日、なんとなく学校に通ってる。
中学から少し離れた高校を選んだせいか、同じ中学から進学したのは他に2人だけ。
1人は男子で、中学の時に話しかけたことはあるけど、きっと彼にとって私はその他大勢。
そしてもう1人の女子には、私がその男子に何度か話しかけたせいで牽制されている。
別に私が悪いことをしたわけではなかったのだけど、幼なじみのその男子に話しかけたのが気に食わなかったのだと思う。
「あんまりタケルに話しかけないで」
バレーボール部の部長もしていたその女子、ほたるさんはクラスの人気者で慕う後輩もたくさんいた。
そんな彼女に言われてしまえば、影の薄い私なんて消え去るしかない…
それでも私は、タケルくんの希望していたN高校を受験して合格した。
県内で2番目の進学校だったから、当初この高校を希望すると言った時には、先生も親もビックリした。通ってた塾ももっと厳しい所に変えて、猛勉強して何とか合格。
私がそうまでしてこのN高校を目指したのは、やっぱりタケルくんのせい。
中学2年の合唱コンクールでピアノ伴奏するタケルくんのピアノの音と姿に、すっかり魅了されてしまったから。
その年の秋、私は勇気をふり絞ってクラスが違うタケルくんに話しかけた。
私も小学生の頃はピアノを習っていたけど、あんな風にピアノを弾く人が同じ学校にいるなんて思いもしなかった。
少しかじっただけとはいえピアノを習っていたからこそ、タケルくんのピアノがどんなに特別なものか実感できてしまったから、少しでもタケルくんに近付きたいと思った。
「合唱のピアノ伴奏、すっごく良かったです」
ある日の放課後、下駄箱に靴を入れようとしているタケルくんに話しかけた。
「ありがとう」
その顔は、この人誰だろう?という顔。
隣のクラスの地味な女子なんて、やっぱりタケルくんは知らなかった。
「わ、私、隣のクラスで、小学生の頃ピアノは習っていたんだけど…タケルくんの演奏がすごくて、びっくりしちゃって」
「そう?」
彼はそっけない。
「あ…あの…」
何とか会話をつなげたい。せっかくタケルくんに話しかけられたのに…
「タケル!」
外からタケルくんを呼ぶ声が聞こえる。
タケルくんは、一度、外から名前を呼んだ人を見てから、私を見た。
「あ…あの…ごめんなさい。ピアノ頑張って…」
いたたまれなくなって、走って逃げた。
タケルくんを呼んだのは、ほたるさんだった。
幼なじみというだけで、タケルくんと気軽に話せるポジションを得ている彼女…下駄箱の横の柱に隠れて、2人の様子を覗き見する。
これじゃ…ストーカーじゃん…
少しでもタケルくんと話をしてみたい。ピアノに関することなら、話が続くのかな…
そんなことを私が悩んでいる間に、タケルくんに話しかける女子は日を追うごとに増えていく。
やっぱりみんな、あの合唱コンクールの伴奏する姿を見て、タケルくんの印象が変わったんだ…!
私だって、クラスが違かったしタケルくんの存在にさえ気付かなかった。
名前も知らなかったし、そんな男子いた?って感じ。
あまり話すタイプでもないし、背は高いほうだけどヒョロヒョロと細いし、何考えてるんだろうって感じはするけど、ピアノを弾く彼は別人…
何とかしてタケルくんに近付きたいとしながらも、それは叶わず残酷に日が経っていく。
でも、タケルくんにあれこれ話しかけていた女子も、進学先まで合わせるなんて人はいなかったらしく、猛勉強してタケルくんの同じ高校の合格を勝ち取った私は、ライバルである彼女たちに勝った気さえしていた。
でも、幼なじみのほたるさんもN高校に進学したのだ。
私は入学式でほたるさんとタケルくんが一緒に登校している姿を目撃して、心底がっかりした。
その上、2人はクラスも一緒…
これまで私にチャンスを与えてくれていたと思われた神は、残酷に私を見捨てた。
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