第5話 ピアノの先生への初恋

※本編第1部、第3話とリンク


はるか先生に会った翌日、僕は思い余ってタケルくんにLINEした。


「タケルくん、春休みで戻ってきたよ。遊びに来ない?」


その日何も予定がないようで、すぐに自転車で遊びにきたタケルくんは、また背が伸びているようだった。

僕も伸びているはずだけど、タケルくんは小さい頃から背が高くて、一体どこまで伸びるんだろうって感じだ。細くて相変らず文化系男子、って感じはあったけど。

この4月に高校生になるんだなと思うと、一気に大人な印象を受けた。


ピアノを弾いて、はるか先生の話をしてみた。

「昨日さ、はるか先生に会いにいったんだよね。髪型変わっててビックリした」


タケルくんは、あまり多く話すタイプではない。いつも俯いているような印象で、よく喋る僕と違って寡黙な感じ。

友達もそれほど多くなくて、教室の隅に一人でいて本でも読んでるような…


僕が話したことに返事はしてくれるけど、自分からあれこれと情報は発信しない。

普通に話していては、僕の得たいものは得られないだろう。


僕はタケルくんに爆弾を投げることにした。


「懐かしかったな~実は僕、初恋だったんだよね、はるか先生」


幼稚園生のただの初恋話だ。でも、俯いていたタケルくんの目線がすっと横に動いたのを、僕は見逃さなかった。

一体、なんて返してくるだろう。

ふーん、と流して終わりかもな、と思っていた僕に、タケルくんは意外な返答をしてきた。


「ピアノの先生に初恋、って多いのかな?」


どうやら初恋話は続けられるようだ。

タケルくんがこの手の話に乗ってくるのは意外だった。

恋バナに少し興味を持った?彼女が出来た?それとも?


「どうだろ?でも、ほら、あのジャニーズっぽい子とかも、絶対はるか先生に恋しちゃってると思うよ」


僕は、他の男の子の生徒の話も振ってみた。

それを聞いたタケルくんは、俯いていた顔を少し上げて、僕を見て黙っていた。


もしかして、はるか先生のこと、タケルくんも意識してる?


二人がピアノを一緒に奏でるのを想像したら、胸がチクリとした。

その曲は、ショパンのノクターン。

はるか先生が、この前僕に弾いてくれた曲だった。

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