第3話 先生との再会
はるか先生に会う日は春休みが始まって2日目。つまり帰省した翌日に、はるか先生のレッスンスタジオに行くことになった。
新幹線の駅で買った動物を模したお菓子を携えて、レッスンスタジオに向かう。
レッスンの時はインターホンを鳴らさないことになっているけど、今日はレッスンではないのでインターホンを鳴らす。
このレッスンスタジオには何年も通っているけどインターホンを鳴らしたのは数回。
夏休みも鳴らしたけど、慣れてないからドキドキする。
インターホンにはカメラがついているから、いい顔で先生に見えるように気取ってカメラを見ていたら、横のドアがガチャっと開いた。
「タオくん!いらっしゃい!!」
予想外の行動に、間抜けな顔をしてしまった僕を、はるか先生が笑う。
「ごめんごめん、タオくんが来る時間だから、身構えて待ってたのよ」
カッコ悪いところを見られたけど、先生が待っててくれたというのが嬉しくて、恥ずかしい思いをしたこともすぐ忘れてしまう。
先生は以前のロングヘアではなく、ショートボブのようなヘアスタイルにチェンジしていて、イメージがもっと軽やかになっていた。
レッスン室に入りすぐに演奏、ということはなくて、ますば僕の好きなジュースを入れてくれた。
「ねえ、その後レッスンはどう?楽しい?」
「うん、今の先生も楽しんで演奏するように、って言ってくれて」
「良かった。先生との相性も大事だもの。安心した。何より、タオくんにはピアノを続けて欲しかったから」
「ピアノを辞めるなんて考えられないよ」
「そっか、そうだね、タオくんはピアノに愛されている子だもんね」
「それはどうか分からないけど、ピアノがないなんて考えられない」
はるか先生は、僕が小学2年生になる頃には僕のことを「ピアノに愛されている子」と言い始めた。
母親はそれを聞いてビックリしたけど…。
『ピアニストになるとかならないとか、そういうことではなくて、どうかタオくんがピアノを弾き続けられる環境を作ってあげてください』と言ったそうだ。
母親はそれまでもピアノに熱心だったけど、それを聞いて賞を取り続けることだけじゃなくて、僕のピアノ環境について考え始めたそうだ。
だから、僕が今もピアノを弾いていられるのは、はるか先生のおかげでもあるし、音楽ではないけれども大学までの私立一貫校に中学から入学したのも、その影響が大きい。
エスカレーター式で希望すれば受験をパスして大学まで行ける。
ピアノを演奏する時間が他の人に比べて十分に取れることがメリットだった。
話が途切れたところで、僕は弾きこんできた予選曲を披露することにした。
バルトークのトランシルバニア舞曲だ。はるか先生のところではバルトークを弾く機会がなかったし、新しい僕の演奏を聴かせられるんじゃないかと思ったんだ。
「かっこいい!バルトーク、すごく合ってるわ!こんな演奏聴けて嬉しい!!」
先生は大喜びだ。
大きな賞をとって先生に喜んでもらうのもいいけど、やっぱり僕の演奏を聴いて喜んでもらえるのが一番嬉しい。
小さい頃はレッスンで先生にたくさん褒められたくて練習したっけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます