第53話 朝凪
サクッ。
サクッ。
波打ち際を一人で歩く。
ぼんやりと昇ってきた太陽を見つめながら。
爽やかな風の吹く中。
羽衣はゆっくりと諦められた<夢>達が集まる海岸を歩く。
さて、……もうこの<夢>達は還さないとだね。
羽衣は、夢海の<夢>、静空の<夢>、奏の<夢>を懐から取り出すと、<夢>の海へと還していく。
波に幾度か打たれると、その<夢>達は煌めきを増し、地上へと降っていった。
羽衣はその光景を一人でぼんやりと見つめていた。
これで、夢海や静空は地上で新しい生となり、生まれ変わるだろう。
普通の一人の人間として。
そしてこれからは羽衣が一人でこの場所で生きていく。
それが
許される事のない<罪>だから。
だから羽衣はこの終わりのない世界で。
諦められた<夢>たちが集まる世界で。
たった一人で生きていく。
最後に残った『願いを叶える"魔法使い"』として。
そう思っていた。
そのつもりでいた。
けれど。
『そうやって、一人で、ぜーんぶ、背負っていこうなんて思わないでよっ!!』
そんな声がこの<夢>の世界に響いた。
と、同時に。
軽い地鳴りがした。
地鳴りは次第に激しくなっていく。
その地鳴りとともに、様々な人々の<夢>達が海から空高くへと昇っていく。
高く、高く昇っていく。
空に瞬く、星々になっていく。
そして……。
目の前の<夢>の海はゆっくりと姿を消してゆく……。
蜃気楼のように。
始めからそこには何もなかったかのように。
光の中に姿を消していく。
<夢>の海が消え去っていく。
さらさらと。
元からそこに存在していなかったかのように。
さらさらと、光の中へと消え去っていく……。
本当に……。
本当に、大馬鹿だなぁ……。
羽衣がせっかく、あなたの<夢>を地上に還したっていうのにね……。
あなたは、もうそんな場所にいなくたっていいっていうのに。
それでも……。
あなたは、『それ』を願うんだね……。
羽衣は、光の中へ消え去っていく<夢>の集まる海を見つめながらこう告げる。
さようなら。
そして……。
今まで、ありがとう……。
見上げた空は、星達は燦然と煌めき輝き。
人々の諦められた<夢>は空へと昇り、輝きを取り戻した星たちは新しい<夢>となり降っていた。
その光景を見つめながら。
羽衣は、ゆっくりと目を閉じる。
本当に、大馬鹿だなぁ……。
もう一人の、かけがえのない、もう一人の私は……。
そうして羽衣の意識も、その光の中へと飲み込まれていった。
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