第45話 そして、再び。
奏は願った。
全ての人に<夢>が戻ることを。
その事で今、<夢>が人々の心に戻り始めている。
全ての<夢>を失った人々の元に、<夢>が戻り始めている。
羽衣はその<夢>を降らせている場所に向かって羽ばたいている。
そこに羽衣は奏の<夢>を還しに行かなければならない。
奏の特別な願いから生まれたこの<夢>だけは羽衣の手で還さないといけない。
『ねぇ羽衣。奏には新しい<夢>は生まれるのかな……?』
羽衣の中の翼希が、羽衣に話しかけてくる。
「うん。羽衣達がこの<夢>を<夢>の海に還せば新しい<夢>が生まれるよ。でももう生まれかけてるかもね」
『ふーん……そかそか……』
羽衣の中の翼希はぼんやりと眼下の奏の姿を見つめている。
「奏には、どんな言葉を送るの?翼希?」
『うーん……そうだね……。……そのほのかな想いはもう通じてるよ……かな?』
「なーんだ。翼希、分かってるじゃない」
『まぁ……あんなことに付き合うお人好しなんてそうそういないよ。奏がにぶちんなんだよ』
「ふーん……まぁいいけど。羽衣からしたら翼希も人のこと言えないけどね……」
羽衣はにししと苦笑いして天高くへと羽ばたいた。
<夢>の降るこの世界の彼方へと。
―――
「手紙……出しましたか?」
私が手紙をポストに投函したのを待っていたかのように、郵便配達員のお兄さんが現れる。
「はい、出しました。ちゃんと宛名付きで」
「そう……ですか。それでは、ちゃんとお届けいたしますね」
「はい、お願いします」
私はそう言って学校へと駆けだしていった。
宛先を書くことができないようにお兄さんは願ったはずなのに。
私はちゃんと宛先を書くことができた。
それは何故だろう。
でも、宛先を書けた瞬間、私は幸せを感じた。
これから、始まる、新しい物語のページが綴られていくような予感がした。
―――
『羽衣。<夢>を降らせている場所ってどこにあるの?』
「分からない。けど、"魔法使い"は人々の諦めた<夢>を、<夢>の海に還してたって聞いてる」
『そもそも"魔法使い"は諦めた<夢>を使って願いを叶えるんじゃないの?今回も羽衣は奏の一番の<夢>を奪っちゃったし』
「今の羽衣達は本当の意味で"魔法使い"じゃないから。翼希の天使の力で願いを叶えてる。だから強い<夢>が必要なの」
『ふーん……それなら、しょうがないか……』
納得のいかないような声音で、羽衣の中で、翼希は呟く。
「それじゃ、翼希。急いで行くよ。<夢>の海のある場所へ」
羽衣は心の中の翼希にそう告げると、力強く背中の羽を羽ばたかせる。
羽衣達の向かう場所。
それは、<夢>達の集う場所。
それは『願いの果て』の物語。
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