第三章 私が天使だったら良いのに。

第11話 "魔法使い"

何か、酷い夢を見ていた気がする。

どす黒い闇に覆われてもがきながらも、抗えない夢。

羽衣はねいは必死に抗おうとしていたはずなのに、いつの間にかその闇に飲まれてしまう。

羽衣はそんな事を望んでなんかいないのに。

羽衣は人々から大切なモノを奪ってほくそ笑んでいた。

そんなひどい夢を見ていた気がする。


頭を振り振り枕元の目覚ましに目を移す。

まだ6時じゃん……。

最近夢見が悪いんだよなぁ……。

何でだろう?


羽衣ちゃんの日常は、最近いつもこんなだ。

特に何かがあったわけでもない。

何故かここのところ夢見が悪い。

そしてみる夢はいつも同じ夢。

のっそりとベッドから這い出し、カーテンを開け朝日を浴びる。

窓から見える青い空、白い雲、程よい角度に照り付ける太陽。

うん、今日も良い天気だ。


羽衣はパパっと寝間着からラフな普段着に着替え、階段を駆け下りて、台所でコトコトと朝食を煮ているばっちゃに声をかける。



「おはよー、ばっちゃ」


「おう、おはよう、羽衣。朝食はもう少しだから椅子にでも座っとれ」


「うん、ありがとう」



そう言われて羽衣は木でできた椅子を引いてそこに鎮座する。

羽衣はばっちゃと二人暮らしだ。

この"魔法使い"達の住む森の中の村で。

父と母はどこか遠くの街で仕事をしていて元気にやっているらしい。

時々手紙が来るけど、あー元気なんだなと位にしか思えない。

"魔法使い"は人々の奉仕者だとかなんとかで大人の"魔法使い"は皆、この森を出ていくのだ。

だからこの森の中の村には老人と子供たちしかいない。

そんな訳で、ばっちゃが私にとって親同然だった。



「ほれ、羽衣、朝食だよ」


「ありがとう、いただきまーす」



羽衣はばっちゃの手作りの朝食が大好きだ。

鶏がらのスープに、手作りジャムを塗ったトースト、自家製野菜のサラダ。

どれも頬がこぼれ落ちるくらい、とっても美味しい。

一口、二口と頬張りながら幸せをかみしめる。



「はー……美味しい……」


「それはそうと学園はいいのかい?」


「何言ってんの、ばっちゃ。まだ6時じゃん」


「お前の方こそ何言ってるんだい。もう8時だよ」


「は?」



そう言われて壁にかけてある時計を見ると、時計の短針は8時を指し示している。

始業は8時30分。

うちから学園までは歩いて30分かかる。

やばいやばいやばいっ。

羽衣はばっちゃの朝食を慌てて胃袋に収めていく。



「ほれほれ。これを飲んで、さっさとお行き」


「むぐむぐ……ぷはーー。ありがと、ばっちゃ!いってくるっ」



羽衣はばっちゃから受け取った特製ドリンク(内容物不明)を受け取って飲み干し、家を飛び出し学校へと駆けだした。


―――


家のある森の中を駆け抜ける。

木漏れ日の中、私は森の中の学園へとひた走る。

小鳥さんが私にチチチチと話しかけてくるけど、今日はごめんなさい。

羽衣は今とってもピンチなの。

お話してる暇ないの、ごめんなさい。

そう心で会話して猛ダッシュ。

通いなれた森の中を駆け抜ける事数十分。

なんとか遅刻せずに学園の教室へと辿り着いた。



「はぁ……はぁ……はぁ……セーーーーフ……」


「珍しいな、お前が遅刻ギリギリなんて」



隣の席の幼馴染、結詩ゆうたが声をかけてくる。



「最近、夢見が悪くてね……」


「夢見……ねぇ……」



言いながら、ふむふむと首肯する。

頷いちゃいるけど分かっちゃいないんだろうなこのアホ幼馴染は。

そういう羽衣もわけわからんけどさ、あんなよく分かんない夢は。



「羽衣は考えすぎなんじゃねーのか?」



言いながらあははと結詩は笑いかけてくる。



「結詩がなーんも考えてなさすぎなんだよ……」



そう、この幼馴染はなーんも考えちゃいない。

"魔法使い"としても低ランク。

契約できた"魔法"も指で数える位しか使えやしない。

それなのに何事もなかったかのように笑って済ませる。


それに比べてこの羽衣ちゃんはとっても優秀なのです、実は。

ほぼ全ての"魔法"を契約した稀代の天才"魔法使い"と呼ばれている。

学生の身分にして羽衣ちゃんが新しく発見した契約"魔法"もあるのです。

えっへん。

そんな羽衣ちゃんなのだけれど、皆そんな羽衣に恐れ多いのか気軽に話しかけてくることもなく。

話しかけてくるのは、この結詩と……。



「おーっす。相変わらず仲良きことは美しきかな、だね。尊み秀吉だよー」



このワケのわからんことを言う静空しずくだけだ。

静空も羽衣程の天才とまでもいかないけれど、相当の"魔法"を契約している天才"魔法使い"だ。

けれどこの静空、性格に相当問題があって。

そこらかしこで魔法を試し打ちして環境破壊をしまくる。

おかげで羽衣がその後始末をさせられることもしばしば。



「そもそも尊み秀吉って誰よ」


「んー?どっかの世界で流行ってる言葉だよ」


「はぁ……そうですか。そんなワケわからんこといっとらんで席つきなよ。先生来るよ」



羽衣の特製感知"魔法"によると先生が来るのはもう2分もないはずだ。



「ほいほい。じゃ、またね、お二人さん」


「おう」


「はいはい、またね、静空」



羽衣と結詩は静空が戻って行くのを見送った。

学園の皆は羽衣達の事を、学園の問題児トリオと言うけれど。

問題児なのは、結詩と静空だけなんだけどなぁ……。

感知"魔法"の予告通り先生が教室に入ってくる。

羽衣はこんなに優秀なのにね、まったく。

失礼な話だよ、本当に。

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