どんな願い事も叶えてあげる。~少女の紡ぐ人々の願い~
牛
序章
第1話 序章
カラン、コロン。
小気味のいい音が部屋に響き渡る。
部屋は薄暗く、辺り一面に星を模したインテリアが煌めいている。
部屋の片隅には物憂げな表情で、ティーカップを見つめる一人の少女。
少女の目の前、テーブル上のティーカップには少女が注いだキラキラと光り輝く星の欠片たち。
「……今日はこのくらいかな……」
少女はスプーンでお茶の中の星の欠片を、カラカラと混ぜる。
スプーンを取り出しカップを手に持ち、音を立てずに一口中のお茶をすする。
「……ちょっと甘すぎたかな」
少女は呟く。
けれどこんな味も悪くはないかなと思い、再び一口お茶をすする。
コクがあって甘々で、でもちょっと渋い。
「……うん、これはこれで悪くはない」
それは少女の日課だった。
それは一仕事を終えた後に行う儀式。
その少女はどんな願い事も叶えることができた。
明日天気になりますようにという幼い少女の願いから、国を治める王になりたいという男の願いまで。
はたまた、天使になりたいという奇想天外な少女の願いすらも。
本当に大小様々、たくさんの願い事を叶えてきた。
けれど自分の願いを叶えることはできなかった。
どんなに願っても、自分の叶えたい願いを叶える事だけはできなかった。
叶えることができるのは、他人の願いだけ。
その事実を知った時、少女は深く絶望した。
だから少女は願いを叶える対価を求めるようになった。
願いを叶える対価。
それはその者の見る、一番叶えたい<夢>。
<夢>を奪われた者は、もう二度とその<夢>を叶えることはできない。
<夢>を奪われた者は、一番の<夢>を失ってしまう。
願いの対価に一番叶えたい<夢>を奪われる。
そんな矛盾するような事を、その少女は続けるようになった。
長い長い時の流れの中で、その少女はたくさんの人々の願い事を叶え続けていた。
少女は自分のたった一つの願いを叶えるために。
少女の自分のたった一つの<夢>を叶えるために。
少女は他人の<夢>を踏み台にして。
踏みにじってでまで、叶えたい自分の願い。
それは……。
……。
カラン、コロン。
少女がティーカップに注ぐのは<夢>の欠片。
様々な人々から奪った<夢>の欠片。
その少女は憂いを湛えた瞳で、ただただティーカップに浮かぶ人々の<夢>の欠片を見つめていた。
そしてその中で一際輝く<夢>の欠片が一つ。
それは……平凡な日常を願った少女の物語。
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