第101話 まったりとラクル

「あら~……、大変なことになってしまっていますね。ルティシア、獣人の子をすぐにベッドに!」

「はい、母さま!」

「いや、心配には及びませんよ。シーニャはおれが回復させますんで」

「……何か心境に変わりがありましたか?」

「責任を取るのもテイマーの役目というだけですよ。そういうわけだから、ルティとフィーサも外に出て支度を」

「は、はいっっ! い、今すぐに~」

「わらわは、イスティさまのさやに入っているなの!」

「そうしてくれ」


 結局のところ、甘えが生じてしまうということに気付いた。

 ここに来れば何かを知り、得られる。


 だが依存しては、スキルは一向に上がらないはずだ。

 ここは一から再出発をする必要がある。


 ルティは慌てて身支度を済ませ、家を出たようだ。


「ルシナさん、三度目の召喚ですみませんでした。次は無いので今度からは、テレポートでお邪魔します。薬師くすしのことも、自分で何とかします」

「……姉から何か言われたのですね?」

「いえ。村にも入れませんでしたからね」

「そうですか。では、ルティシアの為にもアックさんの為にも、しばらくは見守りを致しましょう」

「ありがとうございます。それでは」

「ええ、またいつでも歓迎しますね!」


 関わりすぎてしまった。

 それ自体が悪いわけじゃないが、フィーサにしてもおれにしても、休むべき場所はここではないということだ。


 ◇◇


「フニャゥ~……?」

「大丈夫か? シーニャ」

「アック、どこかに行くのだ?」

「ラクルに帰るよ。そこでなら、シーニャもゆっくり休むことが出来る。それまで、抱っこすることになるけどいいかい?」

「ウニャッ! アックがシーニャに頼んでは駄目なのだ! 行くなら早く行くのだ!」

「ああ、そうする。外にいるルティとフィーサとで、小屋に。そこから飛ぶ」


 湯でのぼせていたシーニャだったが、すぐに回復してくれた。

 そしてこのまま小屋に入って、ラクルに戻る。


 ◇


 ラクルに無事、転送テレポートすることが出来た。

 どれくらいぶりだろうか。


 飛んだ先はルティが借りた倉庫では無く、例によってひと気の無い端の倉庫だ。

 移動スキルは未だに低く、戻りたい倉庫をテレポートスキルに記憶させる必要がある。


 倉庫に着いたおれは、真っ先に倉庫の外、中を歩き回った。

 ルティのおかげでもあるが、借りた倉庫は半永久的に使用することが可能だ。


 両手剣姿のフィーサをルティに預け、シーニャを先に休ませることにした。


「――えへへ~どうですかっ?」

「ふ、ふぅん~……小娘にしてはまぁまぁなの。ここがわらわたちのお家になるなの?」

「そうですよ~! ねぇ、アック様っ! あれぇ? アック様は?」

「さっきからぐるぐる回っているなの」

「むむむ……何から何まで知っておきたいなんて、さすがアック様です~」

「小娘はお気楽でうらやましいなの」

「そういうフィーサは、そのままの姿でいるんですか~?」

「わ、分かっているなの!」

「ほえ?」


 よし、全体を把握出来たな。

 倉庫の町である以上、面倒な輩が訪れて来ることは無い。

 そう思うが、何かしらの防御はしておくべきだろう。


 ……こんなところか。

 応急措置程度にはなるが、外敵が来ないとも限らないので仕掛けを施す。


 ◇


「ルティ、フィーサ。待たせた!」

「問題無いですっ! アック様、お食事になさいますか? それとも、わたしのお部屋に~……」


 やはりラクルに戻って来て正解だったようだ。

 誰よりもルティが嬉しそうにしていて、話しながら恥ずかしがっている。


「フィーサはどうする?」

「わらわは……ここで休んでいるなの。何だか調子が悪いなの」

「……そうか、それならフィーサも自分の部屋で休んでいるといい。剣の姿のままでも動けるかな?」

「うん。問題ないなの! 小娘の次は来て欲しいなの」

「もちろんだ」


 どうやら、人化出来なくなっていることに悩んでいるようだ。

 その原因は何となく分かる気がする。


「……で、ルティ。そんなに息を切らせてどうした?」

「はっはひっ! ようやく、ようやく……アック様をお迎えできると思っていたら、居ても立っても居られなくてその辺を走って来ました!」

「そ、そうか」

「はいっっ!」


 かまってやれてないというのはあるな。

 ルティの働きに頼っているし、交渉事も任せきりだ。


 ラクルの倉庫を半永久的に借りて、帰れる場所を確保したのも大きい。

 特に何かをするわけでも無いが、たまにはルティと一緒にいてやるか。


「じゃあ案内してくれ」 

「さささ、こちらですよ~!」

「こ、こら、そんなに慌てなくても……」

「えへへ~」

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