第72話 盗賊たちの生き方

 地下都市に来て数時間が経つ。

 ルティのことは別の意味で心配になるが、今は気にしないことにした。


 荷物持ち改め、盗賊の新入りとして外に出ることになった。

 ここでやることは、砂地では無く、草地に置き去りにされた武器や防具を盗むことだ。


 捨てられたものを拾うのなら、盗みにはならないはずなのだが……。

 疑問に思いながらも、複数ある内の一つでもある別の出入り口から外に出た。


「新入り! あそこにいる連中が見えるか?」

「連中……あれは冒険者パーティー?」

「ほぅ。目もいいようだな。今夜はあの連中が餌食となる」

「餌食?」

「夜は魔物が活発になる。それがどういう意味か分かるか?」

「……襲われて全滅するってことですか?」

「そうだ。俺らの仕事は、全滅した連中が身に着けていたモンを盗ることだ」


 そういうことか。

 それほど危険な場所なのに、わざわざここを進むのもおかしな話だ。


 冒険者が故意に捨てたものではないことが分かった。

 しかも全滅を待って、それまで身に着けていたモノを頂くとなれば、それは確かに盗みになる。


 それを磨いて売っているのも、盗賊の仕業と疑う者はいない。


「何故ここを通るのですか? 冒険者だって分かっているはずでは?」

「ここレイウルムは、王国と共和国へ行くために、必ず通らざるを得ない場所だ。それ以外は海を渡るか、湿地帯を突っ切るしかないからな」

「それほどまで危険なエリアなんですね」

「ハハハッ! 儲かるぜ、この仕事はよ! しかも今、王国も共和国も兵を集めているからな。ここを通る冒険者パーティーが減ることはねえ。良かったな、新入り!」

「は、はぁ。しかしリスクがあるのに、ここを通るなんて」


 考えると、ラクルに開設された航路は恵まれていると言える。

 もっとも、王国周辺に強い魔物がいるとなれば、並の冒険者では行けるはずもないだろうが。


 王国と共和国……戦争でも始める気があるか、あるいは単なる人集め。

 それとも、別の何かで集めているだけなのか。


「王国周辺は魔物がいても逃げ場所があるが、ここでは地下しかない。地下が安全ってわけだ! 俺らの仕事は、バカな冒険者どもが似合いもしねえ装備を無駄にするってのを、再利用することにある」

「……冒険者を助けないで物だけを盗る……ですか」

「割に合わねえぞ、そんなもん! 俺ら盗賊に魔物を倒せるほど強い奴はいねえしな。お頭は別だが」

「お頭の、えっとジオラスさんは元冒険者だったり?」

「剣士だったからな。新入りが逆らって敵う人じゃねえぞ。それは覚えておけよ?」

「はぁ、そうします」


 後でサーチしとくか。

 剣士が落ち延びて、盗賊団を率いてしょぼいことをしてるのは理解した。


「冒険者パーティーは夜にやられるはずだ。明日の朝になったら、外に出るからな?」

「……分かりました」

「――ってことで、町に戻るぞ。メシだメシ!」


 色々疑問はあったが、素直に聞いておいた。

 お頭であるジオラスの経歴も気になるが、本人に確かめればいいだけのことだ。


 外への隠し出入り口から戻り、町に戻った。

 そこで男連中を待っていたのは、妻らしき女性たちの姿だ。


「あんた、ケガは無いかい?」

「おう、無事だぜ!」

「無理しないでね?」

「分かってんぜ。昔のようにはならねえよ」


 どうやら他の盗賊たちも、元々は冒険者だったらしい。

 そうでなければ、外から戻って来る男たちを総出で迎えるには、あまりに大げさすぎる。


 そういえばルティの姿が無い。

 何か別の仕事をさせられているようだが、落ち込んでいるとかじゃないよな。


『ごぼふっ……!?』


 何やら背中に強烈なダメージを負って、変な声が出た。

 しかも徐々に背中を締め付けて来る。


 まさかの不意打ち。

 そして締め付けと嗚咽が同時とは、何とも不覚。


「うぅぅ~うぅ~……アッグざば、アック様あぁぁぁ」

「うっ、うぎぎぎ……ルティだよな? ちょっと落ち着――」

「ざびしかっだです~……」

「うげげげ……ま、待っ……」


 何たる怪力……。

 このままでは地下都市で息絶えてしまう。


「ルティシア! おれの正面に立て!」

「――! は、はいっ! 今すぐに!!」


 すぐに締め付けから解放され、ルティがおれの前に立つ。

 これについては、特に教育をしたわけじゃなかった。


 ルティの母であるルシナさんから聞いていたことが、役立っている。

 ドワーフでは規律が厳しいとかで、泣きじゃくってもすぐにそれに従うらしい。


 それがまさにいま言ったことだが、素直に助かった。

 正面に立ったルティは泣き顔でぐしゃぐしゃだが、とても嬉しそうにしている。


 外に出て何かをしたわけでもない。

 しかし、帰って来たら安心するとはこういうことか。


「あの、アック様? わたしに何か……そのぅ」

「ああ、そうだな。ただいま、ルティ」


 これも何となくしたくなり、ルティの頭を撫でていた。

 他のみんなのことも心配だが、このがいてくれて良かったと言える。


「はふぅっ!!」

「おっと、悪いな」

「い、いえいえいえいえ! そ、それとアック様! お食事を作りましたっ!! ご一緒に食べましょう」

「そうだな。頂くよ」

「その後で構わないので、あのあの……わたしと添い遂げをですね」

「――ぶっ!? 落ち着け。とにかくメシを頂くから、その話がどこから出て来たのか聞くぞ」

「はいっっ! こちらです~」


 誰だよ、そんな入れ知恵を与えたのは。

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