第67話 漂着のレイウルム半島

 気付いたら船室にいて、外に出たらタコに襲われ……今はどこかの島。

 船に残されたみんなが心配だが、今は目の前にいるこの娘を気遣わねば。


「はぁぁぁぁ~……っくしょん!!」

「ずぶ濡れのままだとまずいだろうから、乾かすぞ」

「それってまさか、アック様がしてくださるのですか?」

「まぁな。だから、ルティ。目をつむれ」

「め、目を……!? こ、これは期待していいやつですね! 思いっきりつむらせていただきます!!」


 おれもルティもずぶ濡れではあるが、メイド服エプロンのルティを乾かす方が先決だ。

 目をつむってもらえば、事故になる心配はない。


 炎と風ですぐに乾かすことが出来るはずだ。


「よし、まずは――」

 火力を弱めにして、炎魔法を発動。


 ルティの全身を炎で包む。

 姿勢よくしゃがんでいるルティは、一時的に熱を感じていることだろう。


「あ、あれぇ? アック様、まだわたしを包んでくれない……はぅっ! こ、この暖かさ、熱さはまさにアック様の愛! 心なしか大量の汗がにじんで来ましたけど、まだ何かされるんですね!?」

「次に期待だ」

「分かりましたっ!」


 このまま服を乾かしたところで、風を発動。

 風属性はあまり使っていないだけに、調整が難しい。


「し、しまっ――!?」

「ふわわわわわ~っ!? な、何やら大胆な持ち上げなのですね! わたしをどこまで抱きあげてくれるおつもりが……ひぃえっ!? う、浮いてる……もしかしなくても、わたし浮かされているんですか!?」

「落ち着け。すぐに降ろすから、そのままの姿勢でジッとしてろよ?」

「はひ~」


 風魔法で一気に乾燥させるつもりが、勢いあまってつむじ風を起こしてしまった。

 これを少しずつ弱めながら、ルティを手元まで降ろさなければ。


「……っと。何とかなったか。ルティ、大丈夫か?」

「はわわわぁっ」

「手荒いやり方になってしまったが、乾いたようだな」

「こ、これがアック様なりの……そうなると、わたしも気合いを入れなければ!」

「下に降ろすぞ。とにかく周りを見ながら、状況を確かめないとな」

「アック様! アック様はお寒くありませんか? よ、よろしければ~……」

「薄着だったからすぐ乾いた。大丈夫だぞ」

「で、ですよねぇ~でしたら、わたしは何か食べられるものを探して来ますっ!」

「待った! ここがどんな場所かも分からないのに、単独で動くのは危険だ。おれと行こう」

「はいっっ!」


 ルティの全身はすっかり乾き、いつもの動きを見せている。

 しかしどういうわけか、ルティの顔や肌が真っ赤に変化しているが、本人は元気そうだ。


 船からはぐれてしまったが、ここから王国に向かえるだろうか。

 海に面した半島のようで、スキャンで見えたのは、レイウルムという名前だけだ。


 乾燥した大地なのか、土の地面よりも砂が入り混じっている。

 ラクル周辺と比べると、広大な陸地が延々と続き海は目の前に見えるここだけだ。


 ラクルは冒険者が好む場所で森も山もあったが、ここでは見当たらない。

 陸地同士は石で出来た橋で繋がれている。


 橋を渡るごとに、エリアの境界が異なるような場所のようだ。

 大地のほとんどは砂のようだが、草地が所々にあるようなので、植物が生きられない環境では無い。


「まずは、歩くか。人の気配も魔物の気配も感じられないし、ここにいてもな」

「何だか久しぶりですねっ!」

「うん?」

「アック様とふたりだけで動くことがです」

「そういえばそうだな」

「わたしは嬉しいです! アック様も嬉しいですか?」

「おれも嬉しいかな、多分」


 あらたまって聞かれると答えに困るが、ルティに助けられなければ今のおれは無い。

 それも含めれば、ルティとふたりだけで動くのは久しぶりかつ、嬉しいと思える。


「どこかに、村か人のいるところがあるといいですね~」

「おれもスキャンしながら歩いているが、まだこれといって見当たらないな」

「わたしを頼りにしてくださいね、アック様!」

「ん? そうだな。頼むぞ、ルティ」

「えへへ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る