第57話 意思持つ魔石?

 いつものように、腰袋から魔石を数個取り出す。

 魔石は石板ほど大きくはないので、片手の手の平だけでシャッフルが可能だ。


 特別な儀式や形式が必要ないのが、ガチャのいいところだといえる。

 さしあたりやることといえば、自分が望んでいるアイテムや装備を思い浮かべるだけだ。


 思い浮かべるようになったのは、レア確定スキルを覚醒してからになる。


「ウニャ……アックが欲しいもの、石がくれるのだ?」

「うん? そうとも限らないな。シーニャの装束も思い浮かべたわけじゃない。その仕組みはおれにも分かってないよ」

「でもすごいのだ! アック、すごい!」


 おれがすごいのか魔石がすごいのか、それは間違いなく魔石の方だろう。

 意図しない物を出してくれている感じもあるだけに、何とも言えない。


 ともかく、地面に魔石を投げた。



 【Uレア 宝珠セット】【Uレア 精霊獣の欠片】

 【SSSレア アイスシールド 氷耐性 Lv200】

 【SSSレア ライトニングハーネス 麻痺付加Lv.500】

 【SSSレア ドレイングローブ 触れた者の生命力を奪う】

 【EXレア ミスリルブーツ 水耐性:氷耐性Lv.900】


「イスティさま、すごいなの!! たくさん出たなの~! しかもわらわに似た物まで出ているなの」

「装備は何というか、まとまりが無さすぎるのが気になるな。すごいといえばすごいが」

「アックが望んだものなのだ?」


 思ったとおりの物が確実に出るわけでもなさそうだ。


「スキュラが水魔法を得意としているから、耐性がつけばいいと思ったが意外だな」

「ピカピカな石がいっぱいなのだ! これは何に使うのだ?」

「うーん」


 正直言って、宝珠が何故出たのか全く不明だ。

 精霊獣の欠片というのは、恐らく過去に出した欠片と使い方は同じはず。


「イスティさま。わらわが思うに、魔石の意思が生じさせたからだと思うの。魔石はイスティさまや小娘と同じように成長途中で、覚醒も果たしているはずなの」

「魔石の意思? 魔石がおれの願いをくんで考えたとでも?」

「それはよく分からないなの……でも、そんな気がする」

「はは、石が意思表示とか、シャレのようだな」

「違うもん!!」


 宝珠はスキュラにとって最高の贈り物だ。

 おれが思っていなくても魔石が先を読んでいるとしたら、どこかで役に立つだろう。


(それにしても見事にばらけた装備だな)


 スキュラ、もしくは正体不明の魔物にとって不利な耐性装備だとすれば、魔石のおかげになりそうではある。


「ハヒ~……アック様、まだ行かないのですか?」

「ルティか。今から行くぞ。彼にきちんと説明してくれたか?」

「はい、それはもう! あの見習い騎士さんは決して強くなさそうなのですが、とっても物覚えが良くて素直なのです。品もあって、きっとどこかの王族なのではないでしょうか?」

「王族じゃなくて、王国から来ているんならそうかもしれないな」


 そういえばラクルに取り残されたと言っていたが、どういう経由で来られたのだろうか。


「ルティはここで待っててくれ。おれは彼と話をして来るから」

「えっ? こ、ここで待っていていいんですか? で、でもでも……」

「少しだけだから、そこに立っているだけでいい」

「は、はいっっ!!」


 


 おれやフィーサがいる所から、少し離れた場所に彼がいた。何があるか分からないし、その方が安心ではある。


「大丈夫か?」

「あ、アックさん! 僕の為に申し訳ありません。まさかこんな海の底にまで足を踏み入れることになるなんて」

「冒険の旅はこれまでなかったとか?」

「はい、ありません。僕は王女の傍に仕え、守ることが仕事の毎日でした。戦いなど、とても……」


 やはりそうだったか。


「王女の傍にいて、これまで危険が及ばなかったと?」

「い、いや、王女様がとてもお強かったものですから」


 王女が最強な王国の見習い騎士か。

 お目付け役にしても、リエンスは実力が無さすぎだ。


「王女の名前を聞いてもいいかな?」

「あ、そうでした。シーフェル王国第二王女、エドラ・シーフェル様の――」

「――エドラ? エドラ・シーフェル?」

「ええ。ご存じなのですか?」


 なるほど、そういうことか。

 聖女エドラは王国の王女だった。


「……いや」

「気性の荒い王女様ではありましたが、知性に溢れ、振る舞いはとてもお綺麗で……」

「なるほど、惚れているわけか」

「そ、そういうんじゃないんです! ですが、強くあられても僕は傍でお守りしたい。そう思っていたのです」


 この奥には神殿しかない。

 そうなるとスキュラと一緒にいるのは、魔石に封じたはずのエドラということになる。


 魔石に封じたグルートとテミドは、この世にいない。

 そうなるとやはり、バヴァルの弟子は――。

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