第52話 虎娘とドワーフ娘、奮闘する?

「ウニャァ~……人間ばかりで動けないのだ、戻れないのだ! アック、どこなのだ?」


 おれとフィーサが魔法テストをしていた頃、シーニャはどこかに迷い込んでいた。

 彼女を飽きさせてしまったのが原因だ。


 レザンス港市場には、港から入出港する船が絶えず繰り返されている。

 その為か、人の流れが止まることはほとんど無い。


 そんな中を突っ切るのは厳しいだろう。

 獣人であるシーニャは、何もしなくても目立つ存在だ。


「あれは虎の獣人か?」

「見て、獣人が港にいるよ。怖いね」


 ――などなど、シーニャへの興味本位な視線は途切れない。


「ウニャ……人間が見つめて来るのだ。アック、アックがいないのだ……ウニャ」


 シーニャを放置したことで、彼女だけにさせてしまった。

 すぐに見つけ出さなければと思い、おれはフィーサと共に、港へ急いだ。




「あれぇ? スキュラさん、どこですか~?」

「何でぇい、姉ちゃん! 物売りか?」

「違います、違うんですよ! 人探しをしていて~」


 スキュラと行動していたルティも、ちょっとの油断で迷子になったらしい。姿を自在に変えられるスキュラから目を離した隙に、スキュラを見失ったようだ。


「あぁぁ~!! アック様にどう言えば~!?」


 シーニャはなるべく人目を避けながら、アックの元へ戻ろうとしていた。

 そんな中、一部の人間が騒いでいることに気付く。


 もしかしたらアックかもしれない。

 そんな期待を込めて、シーニャはその場所に近づいた。


「あれっ? その耳、その尻尾! そして結構派手な格好!! シーニャちゃん!?」

「シーニャは、シーニャちゃんじゃないのだ。お前、ドワーフ娘! アックはどこなのだ?」

「ドワーフ娘じゃなくて、ルティシアですよ? アック様がお近くに?」

「お前、うるさいのだ! アックに近づきたいなら、シーニャと戦えなのだ!」


 おれが思うよりも、シーニャとルティの相性は最悪らしい。

 戦うつもりのないルティに対し、シーニャは爪を伸ばして身を低く屈み始めた。


「ここじゃ駄目ですよぉぉ!! あっちに行きますから!」

「ウウウウー!」


 おれとフィーサが彼女たちを見つけられたのは、漁師たちのざわつきのおかげだった。

 

「何やってるんだか……」

「全くですの。ドワーフ小娘も、虎娘もいい加減子供すぎるなの!」

「じゃあ、フィーサ。彼女たちを止め――」

「嫌なの! イスティさまが原因に決まってるなの。イスティさまが割って入るしか無いの!」

「それしかないのか……」


 ルタットの町で装備破壊されたトラウマがあるだけに、うかつに突っ込みたくない。破壊を避けられるとしたらシーニャになるが、どうしたものか。


「アック、シーニャのあるじ! ドワーフ、いらないぞ。シーニャ、回復出来る! ドワーフ、出来ない」

「そんなことありませんよ!! わたしは、アック様に万能ドリンクとか、回復増強ドリンクとか、えーとえーと……アック様をさらにお強く出来るんですよ? シーニャに負けている所なんて無いんですからね!」


 拳一つで戦うスタイルは変わっていないルティだが、素早さが上がっていて苦手な爪から身をかわし続け、拳攻撃を連続して繰り出している。


 対するシーニャは、野生の勘と経験だけでルティの攻撃を受け流しまくりだ。

 両者の戦いは、ともに決定的な一撃が当たらない状況にある。


 どちらも回復支援系ではあるが、ルティの拳が優位だろうか。


「むむぅぅ!! アック様からお恵みを頂けるなんて、ズルいじゃないですか~!」

「シーニャ、アックに飼われているのだ。貰えて当然なのだ!」


 何やら愚痴の戦いになっている。


「ルティシア、シーニャ! いい加減にしろ!!」


 割って入るのは厳しかったので、声で制した。


「ウニャッ!? アックがいるのだ……シーニャすぐにやめるのだ」

「アック様ぁぁぁ~はぅぅぅ……、も、申し訳ございませんんん~!!」

「二人とも案外素直だな。ルティ、スキュラはどこに?」

「はいい~……ごめんなさいです~」


 きちんと伝達したわけでは無かったが、スキュラに逃げられたようだ。

 しかしここからラクルの港に戻るには、船に乗らなければいけない。


 様子がおかしいと気付いた時点で、やはり一緒にいるべきだった。


「シーニャ、ごめんな」

「アック、ごめんなのだ……ウニャ」

「怒ってないから、でもルティと戦うのはもう止めるんだぞ?」

「フニャゥ」


 シーニャはこれでいいとして――


「ずっと一緒に見て回っていたんですよぉぉ~!」

「おれがはっきりと伝えなかったのが悪かった。ルティのせいじゃない」

「ご、ご主人様ぁぁ~!! お詫びにこれをグイッとぉ!」

「あ、後でな」


 バヴァルの弟子を探さなければならないし、スキュラの行方も気になる。

 どこから行くべきだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る