第51話 ギルドの行方と真実 後編


「イスティさま、わらわはどうすればいいなの?」

「そうだな……」


 その前にどういうテストをされるのか、それが分からないと駄目だ。

 

「お前の名は?」

「アック・イスティだ。実力をどう見せればいいんだ?」

「目の前に見えている巨木を燃やしてみるがいい!」

「……巨木を? しかしその巨木は、レザンスのシンボルのようだが?」

「なに、当たらぬから心配無用。たとえ当たったとて、傷の一つもつけられないだろう」


 老齢の魔術師が巨木のすぐ傍に立ち、他の魔術師たちは少し離れた所から見ている。

 どうやら完全に見くびられているらしい。


「――エクスプロジオン! これが当たれば無事では済まない」


 爆発魔法は火力が強く、おれの魔力を存分に消耗して形と成す。

 しかも動かない標的だ。それをめがけて放つだけでいい。そう思いながら両手を広げ、巨木に向けて発動させた。


 しかし巨木の手前で威力が落ち、そのまま爆発魔法が消えてしまった。

 魔術師は一歩も動いていない。


「……どうした? それがお前の実力か?」


 巨木はもちろんのこと、老齢な魔術師は身動き一つ見せていない。

 何か仕掛けがあるとは思えないが、違和感を感じる。


「イスティさま。わらわを使ってなの! わらわを引き抜いたら、すぐに炎をエンチャントしてくれればいいの」


 鞘に収まっているフィーサが、背中越しからささやいて来た。

 両手剣の彼女には魔法効果をエンチャント付与出来るが、今までそれを試したことは無い。


 だがフィーサは、真っ先に強い気配に気付いた。その時点で、おれが気付かない異変に気付いているはず。


「フィーサブロスに、ファイアボールを付与だ!」


 フィーサの剣全体に炎がほとばしる。

 彼女を握りしめながら、おれは巨木に向かって一直線に斬りかかった。


 燃え盛る炎は巨木ではなく、辺りの空間を巻き込んで轟音と共に崩れ出した。


(な、何だ、これは……) 


 建ち並ぶ家々は焼け崩れた姿を晒し、足元からは焦げついた土の地面がむき出しになっている。

 そして複数いたはずの老齢魔術師は、一人しか見えない。


「見事! 我の幻影魔法をいとも容易く破るとは……」


 幻影魔法ということは、複数の魔術師もこの家々も全て幻なのか。

 しかし巨木だけは、少し焦げたように見えている。


「どういうことだ? 幻に見せて攻撃をけしかけさせたとでもいうのか?」

「無礼をお詫びする。我はレザンス・リブレイ。現魔法ギルドのマスターである」

「へ? リブレイ……? レザンスって――」


 この人が本当のギルドマスターということになるのか。

 しかもレザンスの名を冠しているということは、国王ということになりそうだが――。


「バヴァルは我の弟子であり、ここを焼け尽くした魔女でもある。先程まで見えていた家々は、全てバヴァルによって焼かれてしまった。巨木も焦げがついてしまったが……」

「つまり、ここが魔法ギルドの中心地だったと?」

「そういうことだ。手前の港など魔法の気配すら無い。ここが魔法国と知る者は、もはやいないだろう」


 そうなるとここは、ラクルと同様の港町か。


「バヴァルは叛逆ほんぎゃくを?」

「才能があり後継者育成をしていたが、弟子が手にした神殿の書物を手に入れてから、おかしくなっていった。その結果が、このざまだ」

「しかし、それだけでここを燃やすなんて……」

「神殿の書物、つまり魔導書にはスキルを覚醒させることが書かれていた。力を持たせれば危険だと判断し、我は書物を人知れぬ港の小屋に隠した」


 もしやおれが見せられたあの魔導書のことだろうか。

 そしてギルドだと案内されて入ったのがあの小屋だとすると、転送先としては辻褄が合う。


「隠した……?」

「そのことに怒り、ここを燃やされたというわけだ」


 どういうつもりか今となっては分からないが、おれを最後の弟子と認めて与えたことになる。

 魔導書とスキルを与えてどうするつもりだったのか。


「バヴァル自身の覚醒は?」

「書物を見つけ出された時に触れていたが、覚醒はしなかったようだ。弟子を覚醒させようと企んでいたが、弟子には逃げられ年月だけが過ぎ去った」

「じゃあおれが……」

「そうだ。お前が最後の弟子ということになる。覚醒を果たしたのだろう?」

「…………」


 当初はバヴァル自身が覚醒するつもりだったはずだ。

 だが叶わず、それをおれに与えて成功した。偶然にしては出来過ぎだ。


「それが何かまでは問わぬ。だが、バヴァルの教えを引き継いだ弟子がここに来たのは、何かの凶兆。何か良くないことが起きるかもしれぬ」

「しかしおれは――」

「悪いことを企む者ではないと知った。その宝剣は、そういう者に扱えるモノではないからな」


 よく分からないが、フィーサのおかげのようだ。

 ギルドもろとも町を燃やすなんて、とんでもない魔女だったわけか。


「それでおれはどうすれば?」

「逃げた弟子が生きていれば、良からぬことをするはずだ。バヴァルの意志を遂げるか、あるいは……」

「邪魔を?」


 そうやって敵を増やしていくことになるわけか。

 乗り掛かった舟というか、関わってしまった以上はやるしかなさそうだ。


「……ともかく、バヴァルの弟子だった女を探して阻止を願う」

「関わってしまった以上は努力しますよ」

「うむ……全て片付けたならば、お前はレザンスのギルドマスターとなれ!」

「え、おれが!?」

「待っているぞ」


 全くそんなつもりは無いのに、ギルドマスターと言われてもな。

 自由気ままに生きるはずが、何故こんなことに巻き込まれているのか。


「イスティさま。ギルドマスターになるなの?」

「無いな。……ところで、シーニャは?」

「知らないなの。じっとしていることがない虎娘のことだから、港に行ったかもなの」

「港にか」


 シーニャには退屈させてしまったようだ。


「もしかしたら、ドワーフ小娘の所に行っているかもなの。イスティさま、行くなの!」

「それしかないか」


 バヴァルにささやかれてついて行ったばかりに、こんなことになるとは。

 こうなれば、逃げた弟子を探すしかないのか。

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