第10話 魔法国と魔導書の変化

「そうそう、こんな感じで手の平に魔力を集中させて……」

「こ、こうですか?」

「筋がいいね、あんた。これなら今すぐにも魔導書を読むことが出来そうだ」


 ◇◇


 ラクルの港から船に乗ったおれたちは、魔法国レザンスにやって来た。

 レザンスへは、わずか一日ほどの航海だった。


 おれは宝剣フィーサを背負い、水棲怪物であるスキュラを連れ歩いていた。

 それがかなり目立っていたらしく、着いて早々怪しげな魔法士に声をかけられてしまった。


「それは≪宝剣フィーサブロス≫!? あんた、何者だい? 一体どこから……いや、ひとまずギルドへ来てもらうとしようかな」


 大きすぎる樽を背負って歩いていたルティだけが、何故か行商人として勘違いされ、別の意味で人だかりを作った。


「ひぃぃええ~!? どうすればいいんですか~?」

「ギルドに行って来るから、そこで待ってて」

「分かりました~! あぁぁぁ!? こ、これは売り物じゃありませぇん!!」


 赤髪でドワーフな彼女はとても目立つのか、割と注目を集める傾向にある。

 だがおれは、まだルティ本人からドワーフなのだということを聞いてはいない。


 わざわざ聞くまでも無ければ言うほどでもないと、おれも彼女も思っているからだ。

 決して珍しい種族ではないが、親しげなドワーフの少女だといえる。


「ここが入り口だよ。さぁ、入って」


 おれたちは言われるがままに、魔法ギルドの部屋の中へ入る。

 当初、魔法についてはスキュラから教わるつもりだった。


 ところが彼女の使用属性は、水属性ばかりでしかも教え方が分からないとまで言われてしまったので、今に至っている。


「あたし一人だけなら使えるんですけれど、アックさまにお教え出来るようなスキルは、持っていなかったですわ」

「そ、そんな……それは困ったな」


 意気込んで教えようとしてくれた気持ちは嬉しかった。

 だが、言葉だけでは伝えられないというのは厄介すぎる。


 それもあり、ルティと同様にスキュラも外に待機させた。

 宝剣フィーサに至っては、ずっと眠っている。彼女曰くその時が来たら眠れなくなるから、今のうちにたくさん眠っておきたいらしい。


 それはあながち間違いじゃなさそうなので、フィーサを鞘から出すことは控えている。


「宝剣使いの……あんたのお名前は?」

「アック・イスティ。宝剣使いでは無いが、ともかく魔法を――」

「あぁ、そうだったね。アックさん。まずはレザンスの魔法ギルドへようこそ! 私はギルドマスターのバヴァル・リブレイだよ」

「――あ、どうも」


 ギルドマスターと名乗っているが、どういうわけか建物の外はもちろんのこと、部屋の奥から人の気配は感じられない。魔法の国という時点で、魔法士向けの依頼があってもおかしくないのにだ。


 バヴァルと名乗った老齢な女性は、ギルドマスターの割に、おれに対し随分と腰が低い。

 ラクルに似て冒険者しか訪れないギルドに、久しぶりに訪れたからだろうか。


「ところで、宝剣を手にしているということは、魔法剣を習得したいお考えですな?」


 バヴァルの言葉を聞く限り、どうやらフィーサは相当な剣のようだ。


 宝剣というだけでも目立つが、これまで英雄が長年に渡って手にしていたこともあるとしたら、確かに持っているだけで目を引く。


 宝剣持ちというだけで、自然と魔法を覚えることになりそうだ。

 それに魔法剣となると、元々のフィーサの強さに加えて属性を付与することになるはず。そうなれば、何が来ても負けないだろう。


「……む? アックさんには、すでに魔力が備わっておりますね」

「――あぁ、それは前々から言われていますが」

「これまで魔法をその身に受けたことが?」

「一応ありますね……」


 正確には状態異常魔法で死にかけた上に、睡眠耐性もついてしまっただけだが。


「それならば、当ギルドの魔導書に触れるだけで適正の魔法スキルが覚醒するかと」

「魔導書? 適正の……?」

「アックさんは、まだこれといって決まった属性はお持ちでは無いでしょう?」


 スキュラから教わってさえいれば、水属性は身に着けていたかもしれない。


「そうですが……」

「どれ、手の平に魔力を集中させてごらんなされ」

「ぬぅぅ……!」


 どうやれば集中させられるのか分からなかったので、ルティのように拳に力を込めてみた。

 

「ふむ、筋がいい。これなら問題なさそうだね」


 レア確定な魔石ガチャを所持しているし、当然だろうな。

 しかしガチャをしない時は、攻撃魔法の類は打てないし使うことも出来ない。


 どうせなら自分の意思で魔法を撃ちたいものだ。

 どんな強力なものでも歓迎するし、とんでもない化け物クラスでも出せたら嬉しい。


「こんな手の平で?」

「それを魔導書は判断するのです。あなたにとって、相応しい魔法スキルを導き出す……それが当ギルドの魔導書なのですよ」

「触れるだけでいいなら、ぜひ!」

「ではお待ちを」


 そういうとバヴァルは、奥にある書庫から埃だらけの魔導書を持って来た。

 いや、絶対今まで使ったことないだろ。


「けほっ……では、表紙に手を乗せて」

「あ、あぁ、まぁ……ゴホッゴホッ」


 これは何ともひどいものだ。それでも触れるだけならと思い、古びた魔導書に触れてみた。

 一瞬だったが、触れた途端に手に熱のようなものを感じた。これはガチャ直後に熱くなる魔石の感じによく似ている。


「――むっ!? 表紙の絵が……変化し始めた」

「えっ? 変化?」


 魔導書の表紙の絵は何かの英雄が描かれていたが、若干絵が変わった気がするだけで、自分の中で何かが起きた感じはしない。

 

「ふむ……適正が下されました。アックさん、あんたは限定召喚と全属性、そして全精霊のスキルが覚醒しましたな。召喚に関して言えば、何かの触媒でもって強化されますでしょうな」

「召喚!? それに全属性に全精霊……? というか、限定召喚とは?」

「魔石をご存じかな?」


 既に所持しているが、黙っておこう。


「――ま、まぁ」

「アックさんが召喚をするには、魔石が必要となるのですよ。そして魔石を介した召喚は、何らかの力を限定的に現わすことでしょうな」

「……魔石」

「いずれにしても、全てにおける適正がなされた。アックさんには、ぜひとも宝剣に魔法を付与して欲しいものですな」


 こんな簡単に……と言ってはいけないが、全属性が使えるなんて幸運すぎる。

 召喚は外で試すしか無いが、依頼でも受けてやってみるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る