第2話 約束された出会い!

「な、何だこれ……。レア確定?」

 

 確定ということは、いいものしか出て来ないということなのか。

 手の平に浮かんだ魔法の文字は、すでに消えている。

 これなら何とかなりそう。そう思って、魔石を握りしめガチャをしようとした時だ。


 視覚を失いのたうち回るワイバーンが、あろうことか壁を壊して崩落を引き起こしてしまった。


「う、うわあああ!!」


 こうなると壁際に避けたのも意味を持たず、逃げ場も無い。

 大量の土砂と石が、容赦なく天井から落ちて来る。


 岩や石の下敷きになる……そう思っていると、すぐ目の前には倒れて息絶えたワイバーンの姿があった。

 

「これだっ! もうこれしかない」

 

 おれはワイバーンの翼の下に身を潜め、崩落が終わるまで息をひそめて待つことにした。

 そこからはもう、自分がどうなったのかさえ分からない。


 ◇◇

 

「あのっ! 大丈夫ですか~? もしも~し?」

 誰だ……? 誰かがおれの体を揺らしながら、何度も声をかけている。


「あああ~どうしよう? どうしたら~? あっ! そうだ!!」

 

 エドラにかけられた睡眠耐性が無くなっていたこともあって、なかなか目を覚ますことが出来ない。

 それに加え、体のあちこちから痛みを感じている。


 ワイバーンの翼に助けられたものの、崩落によるはずみで外に放り出されていたようだ。


「よいしょ……っしょ! んん~これは結構な量ですよ。でもこれならきっと!」

 さっきから何をしているのだろう。話し方からして、少女のように思えるが。


 体の痛みはともかく、まぶただけかろうじて開けそうだ。

 

 そうっと開くと、そこには大きめのたるを引きずりながら、今にも大量の水か何かをおれに浴びせようとしている少女の姿があった。


「わーーっ!? 待っ――」

「ごめんなさい~!! もう止められないです~!」


 口も目も開けっ放しだったおれに、大量の液体が降り注いで来た。

 全身水浸しになり、口の中から体内に沁みいる様に流れて来る。


「ど、どうですか~?」

 少女は恐る恐るおれの顔を覗き込む。


 何がどうなのかおれが聞きたいが、全身から痛みが消えた上、気のせいか力がみなぎってきた。

 とにかくまずは体を起こすことにする。


「……おれに何をかけたの?」

「おぉ~まずは、全快おめでとうございます! ついでに持って来た甲斐がありましたよ~」


 少女は甲高い声で、とても嬉しそうにしているようだ。

 赤毛の長い髪に、赤い瞳、口元からのぞかせる八重歯は幼さを感じる。


 革の衣服とスカートの上にエプロンということは、どこかのお手伝いさんだろうか。


「と、とにかくありがとう。きみのおかげで命拾いをしたよ」

「いえいえ~! これも全ては、アックさんへのご奉仕によるものなのでありまして、お礼はむしろわたしがするものですよ~!」

「あれ、おれの名前教えたかな?」

「そりゃあ分かりますよ~! ガチャをされたお方なんですから」

「……ガチャ? そういえば魔石はどうなったんだ……」


 少女の言っていることはともかくとして、崩落で意識を失うまでずっと握りしめていたはず。

 しかし手元には魔石が無く、着の身着のままの状態だ。


「魔石ならこちらですっ! アックさんにお返ししますね。どうぞ~っ!」

「あ、あぁ、どうも」


 少女から丁重に魔石を手渡されると、何故か熱さを感じた。

 その途端、手の平に魔法文字が浮かんだ。


 【Uレア 凄腕のルティ Lv.2】


「なっ……、何だこれ」

「は、恥ずかしいです~! アックさんに見られてしまいました」

「へ?」


 すぐに魔法文字は消え、魔石はすっかりと冷え切っている。

 これはもしや意識を失っていた内に、レア確定ガチャを引いていたのだろうか。

 

 ユニークレアで、凄腕、少女の名前にレベル……?

 人間に見えて実はモンスターだったりして。


「改めまして。わたしはルティシア・テクス。ロキュンテの凄腕回復魔道士、十七歳ですっ!」

「……ロキュンテって、あの火山渓谷の!?」

「実はちゃんと町があるんですよ~。体もぽかぽか温まる温泉付きです」

「お、驚いた……あそこに人間が住んでいたなんて」

「そういうわけで、ぜひぜひ、ルティと呼んでくださいっ!!」


 ――ということは、レア確定スキルでガチャを引いて、ルティをここに呼んだのか。

 しかもおれのことをご主人様扱いしていて、嬉しそうだ。


「ル、ルティ……」

「はいっ! 何でしょうかっ?」

「さっきおれにかけた謎の液体は何かな?」

「力みなぎる万能回復温泉水! でした~! 実はですね、アックさんに呼ばれる直前に、樽にんでいる最中だったんですよ。なので、それも一緒にお持ちしたわけなんです!」

「凄腕ってことは……」

「回復はお任せ下さいっ! 回復するたびにアックさんの力は、どんどんみなぎって行きますよ~! そ、それと、わたし、腕の力が半端じゃなくてですね……樽とか岩とか、重さを感じることが無いんですよ」


 あぁ、だから力がみなぎっているのか。

 気のせいでは無く体力も上がっている感じだ。


「でも、その樽を運ぶ時に引きずってなかった?」

「最初からそんな力のことを見せたくなくてですね。恥ずかしいです……」

「ご、ごめん」

「そんなわけで、アックさん。重いものを運ぶのと回復は、わたしにお任せ下さいっ!」

「――ということは、俺を助けた時に岩とかを?」

「軽くて持ち運びやすかったです。魔物はどこかに投げ飛ばしちゃいました!」

「は、はは……そ、そうか」


 ワイバーンを盾にして身を潜めたとはいえ、切り傷は無数に出来ていた。

 そのせいで痛かったわけだが、レア確定ガチャで引いた少女によって助けられていたらしい。


 どうやら彼女は、とんでもない力の持ち主のようだ。

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