#008 渚にて幼女


「ほら、ママ上。約束の8万4千ガルンだ」

 3人で稼いだ金を俺が徴収してリサに渡す。

「確かに。よくやったな、エビ丸。これで週末は海水浴だ」

「やれやれって感じだ。今日はもう寝る。くたくただ。明後日の昼まで寝てやる」

「それは寝過ぎだ」


 翌日朝。

 久しぶりに仕事もなく、朝の惰眠をむさぼって、町に出かける。

 港を歩いていると、噂話が聞こえてくる。

「明日、『ドルノーマス』からの船が来るらしいぞ。金持ちの一団が乗ってるって話だ」

「そりゃいいや。せいぜいうちの村にも金を落としていって欲しいもんだな」

 ドルノーマス。おしゃべりなモブたちによると、その国は「ハイン」、「ベルンレーゲル」と国境を境にする「シノメア半島」の3国の1つだ。

 ちなみに、シノメア半島の付け根は、南の帝国、「マイン・ジューダニア」と隣接している。悪名高い、好戦的な帝国らしい。

 なんとなく物見高さから、もっと話を聞きたくてヴィーナスの貝がらに寄る。


「おれ達は山賊だ。が、別に店を荒らしにきた訳じゃねェ。酒を売ってくれ。樽で10個ほど」俺言う。

「ごめんなさい。お酒は、今ちょうど切らしてるんです」女店員のメルサが頭を下げる。

「んん? おかしな話だな。海賊共が何か飲んでる様だが、ありゃ水か?」

「ですから、今出てるお酒で全部なので」


「いや、何でお前らワンピースの第1話ごっこしてるんだ」酒場のオヤジがツッコむ。

「気分だ。メルサが良い女なんでちょっとからかっただけだ」

「もう、エピくんったら」

「だいたい普通はシャンクスかルフィのマネだろ。なんで山賊やねん」

「ワルに憧れる年頃なのだ」

「ワルの規模がちいせえ」

 メルサがミルクのジョッキを持ってきてくれる。


「飯はどうする? 今日は良いサザエが入ってな。壺焼きなんか絶品だぞ」オヤジ言う。

「いや。貝はアワビ以外食べない主義だ」

「贅沢か!」

「牛をくれ、牛を」

「せめて牛肉って言え!」

 マルガージョさんのところである程度稼いでいたので、昼から贅沢にローストビーフ丼を注文する。

「オヤジ、明日船が来るらしいな」

「ああ。大型のガレオン船が寄港するって聞いてる。商船とは言うものの、各地の港で物資を仕入れて、ついでに港のゴロツキからギャンブルでカモろうって連中だ。ロクなやつはいないぞ」

「なんだ、中身はチンピラか」

「本当に一部のブルジョワの商人以外はそう見てくれて構わねえな。ああいうやつらが来ると店は儲かるが治安が悪くていけねえ。町の連中も、この時期は年頃の娘を家の外に出さないようにしてるんだ。理由は、分かるだろう?」

「ああ、生理だろ」

「そこに直れ~~~!」オヤジが絶叫する。

 ふうん。まあいい。明日は海水浴がてら、その商船ってやつも見学するか。



 翌朝。空は快晴である。

 みんなで海水浴に行くぞ大作戦決行の日だ。

 森から水着を着て港まで行く訳にもいかんので、オリヴィエんとこの砦に寄らせてもらって、お着替え完了。

 はっきり言おう。眼福である。

「ママ上~~~」

 ふらふらふら、ぴとっ。

「これ、どこを触っている」

 リサはワンショルダーのセクシーなビキニで、深紅の布地が男心をくすぐる。

「どうだ諸君。これが正義だ」リサが堂々と腰に片手を当てる。

 白い肌にワインレッドの布が映える。大人の色気と言うやつである。


「バシッとビリっと悩殺だっ!」

 アルファは、ジーパン生地のホットパンツにチューブトップ型のバンドビキニ。

 エメラルドグリーンの派手なブラが蠱惑的である。

「イケイケで盛り上がるならアルファが1番だな」

「ビバ、夏! お日さまよ、こんにちは!」

 うん。すでにもうフルスロットルだ。


「エピ。アオイ頑張ったんだよ」

 アオイは青と白の水玉ワンピースタイプの水着だ。

 確かに頑張った。露出は少ないながらも、褐色の健康的な肌に青と白が浮かぶ。

 頑張った大賞をあげたい。

「うん。いいんじゃないか?」

「なんか、ママとアルファちゃんの時と比べて反応が薄くない?」


 そして真打ち登場。

「くっ、みんなしてそんな目で見るなぁ。ボク、恥ずかしいよ」

 水着に恥じらい。外れなしのディップソースみたいなものである。

 コロンは灰色の、下着っぽいハイネックビキニ。首や腰回りの紐がアクセントになっている。

「優勝です」シュンが宣言する。

「なんの優勝だよ、もう」


 そして最後がオリヴィエの妹、クリスである。

「もじもじ、もじもじ」

「く、口でもじもじと言っているだと!?」

 この子は天才か? どうやったらそんな萌えワード思いつくんだ?

 黄色のビスチェタイプの水着を着たクリスはまさしく夏の妖精。

「クリス。似合ってるぞ」「ああ、セクシークイーンだ」

「ありがとうございます。お兄様、エピさん」



 ギルド、固い尻のメンバーと、オリヴィエたちを伴って浜へ行く。

 遠くに見える大型船用の桟橋にはガレオン船が寄港しており、立派な船体と純白のマストが遠く見えた。

「よおし、行くぜえ!」

 アルファが叫んでざぶざぶと海に入っていく。そしてガンガン泳ぐ。

 みんなもつられるように泳ぎ出す。

「ん? ママ上は泳がないのか?」リサはサングラスをかけて浜に寝そべり、すでにくつろぎモードだ。

「ああ。若い君たちには分からんだろうが、潮風を感じて寝る。それが1番の過ごし方だ」

「若いって、ママ上だって若いだろう」

「何を言っている。わたしはもうすぐ100歳だぞ。いまさら波打ち際ではしゃぐほどピュアじゃないんでね」

「ひゃ、100歳!?」

「知らなかったのか? なら覚えておけ。魔女はな、もっと言えば美人は物理法則を超越する」

「美人ってスゲー」

「な。分かったら行って来い」


 みんなに交じってちゃぷちゃぷする。

 アオイとクリスは浅瀬で水をかけあってきゃっきゃしていて、アルファとオリヴィエが力比べの相撲、ジノとシュンが素潜りの競争をしている。


「お? コロン、お前は何してるんだ?」

「ボク、泳ぎは苦手なんだ。いまね、貝がらを探してたんだよ。キレイなのは自分用に、微妙なのはお母さんにあげようと思ってるんだ」

「それはママ上も災難だな」

 俺も来ていきなりガンガン泳ぐのはちょっとアレだったので、コロンと一緒に貝がらを探す。

「これなんかどうだ?」俺はピンクの小さな貝がらをコロンに見せる。

「いいね。紐通して、アクセサリーになりそう」

「じゃあこれは?」

「それはいまいちだなあ。そういうやついっぱいつなげて、風鈴の下に下げておくといいかも」

「なるほどな」

 そうしていると。


「おや、地元の人かな? 君たちも貝がら集めかい?」

 声に見上げると、綿パンに襟付きのシャツを着たメガネのおじさんがニコニコとこちらを見ていた。片手は娘と思われる少女の手を握っている。

「初めまして。アイーシャの森で生活しているコロン・ゴワーズです。もしかしてガレオン船に乗ってきた人たち?」

「エピだ」

「わたしはダニエル・ライダー。ドルノーマスの商人だよ。こっちが娘のカルナ。カルナ、ご挨拶なさい」

 パパに背を押され、少女が俺たちを見る。

「カルナ・ライダーだよ。10歳。パパのお仕事についてきたの」


 その瞬間、俺の身体に電気が走る!

 よく見るとものすごい美少女だ。

 垂れ目で細面ながら眉はキリっとしていて、少女ながら美人の凄みがある。まだ幼いが、それゆえの色気みたいなものがあって、ロリコンじゃないけど、「レオン」の「マチルダ」には抗いがたい、そんな感じだ。

 俺は叫ぶ。


「大変だ、お前らー! 美少女が出たぞーーー!」

 その声にシュンとジノがマッハで駆けてくる。

 オリヴィエも紳士面しながらちんたらやってくるが、足並みが微妙に早い。

「おお、お仲間がいたんだね。カルナ。せっかくだから皆さんに遊んでもらいなさい。パパはちょっと町のマルシェを見てくるよ。すぐ戻るから良い子にしてなさい」

 パパがそう言うと、カルナは瞳を潤ませてパパを見上げた。

「カルナを置いて行かないで。なんでもする。1人にしないで」

 カルナはその色気から、秘密の箱根旅行みたいな空気を放出している。

 男たちはもう獣だ。この子にめちゃめちゃしてやりたい。そんな邪な考えが浮かぶ。

「マルシェは、また今度でいいか。アハハ! 仕事なんてくそくらえだ!」

 パパが娘の色気にやられている。実の親がそれはマズいんじゃないかと思うが、パパの人生だからパパが決めればいいと思う。

「はははっ、困ったものです」パパが言う。

「お前がな」

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