前進

その号令はひくく、つよく響いた。

「前進せよ」

その言葉は前途に立ち込む闇を切り払う。

「前進せよ」

その命令は犠牲を暗示する。

血の犠牲ぬきには前進することはできない。

「前進せよ」

そうして踏み込んだ先で誰かが死ぬ。

敵か、味方か?

それさえ分からぬ。

「前進せよ」

それは幾度となく繰り返されてきた。

人々はそれを知っている。

血の犠牲ぬきには前進することはできない。

しかし。

人々は死よりも、何よりも停滞を恐れてきた。

やがて訪れる血の流れぬ静かな死よりも、血の流れる今この瞬間をこそ求めていた。

「前進せよ」

その号令。

その言葉。

その命令。

それは低く、広く、強く、確かに響き、伝わった。

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