詩集

文乃綴

怒り

彼は怒った

青年のように

実直で無垢なその精神のために

彼は怒った

あゝ その不誠実のために

あゝ その無気力のために

あゝ その不正義のために

彼は怒った

なんと美しいことだろう

彼は怒った

彼の心の中にある

感性という名の秀麗なナイフは

未だ尖りきっていて

振り回せば誰かを斬りつけてしまう

けれども

私の心の感性という名のナイフは

もはや先の丸くなったペーパーナイフに過ぎない

だから私は 専ら紙に親しみ 紙を切ることにしている

そうなってしまった

けれども彼の感性は

不正義という名の灰色の紙を

無気力という名の麦色の紙を

不正義という名の赤色の紙を

切って

切って

切って

散り散りになるまで切り捨てて

それでも尚 刃先は輝き秀麗なままである

あゝ なんと美しいことか!

その秀麗なる青年的な憤怒!

もはや私の手元にはないが故に 心の底から美しい その秀麗な激怒……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る