ハル

第1話

大きくなったら、ケーキ屋さんになりたい。

それは私が幼少に抱いていた夢だった。

理由なんて知らない。今思えば、

「何でケーキ屋さんなのだろうか」とさえ思う。

自分が歩いてきた道にはケーキ屋さん以外にだってもっとあったじゃないか。

ほら、汗を流しながら建物を修理する人や、電話をしながら走っている人、無駄にニコニコしてティッシュを配っている人。

沢山いるのに見ない。見ようとしない。

なら、私はパティシエ、パティシエールが苦労しながら、1gたりとも分量を間違えぬよう眉間にシワを寄せてスポンジを作っているところを見たことがあるのだろうか。

勿論、見たことがなかった。

あの頃の私はまさに、太陽だけを見て雲を見ようとしていなかった。

雨が降る中そんなくだらない事を考えていた。

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