第55話 勇者王朝誕生
「王宮へ行く?」
3つの小さな魔石を魔石堂の祭壇に据える儀式を終えた。その後のささやかな祝宴の最中に、リョウはその話をし始めた。
「はい。歴史上の大賢者や賢者たちは、オベロン王にその称号を贈られたあと、人間の王にその報告する定めとなってます。我々も、それに倣おうかと」
村長は他の村人たちを気まずそうに顔を見合わせる。
「それは……どちらの王宮にですか?」
キンダーが丁寧な言葉づかいで聞く。オレは全てを理解し、答える。
「もちろん正当な王宮だ。オクトが自称する勇者王朝などではない!」
* * *
その報告がギョンボーレの都にもたらされたのは、口頭試問が終わり、オベロン王より大賢者の称号を贈られたまさにその日だ。
さらにそこから遡ること一週間前、この時代の魔王・ギオロンが勇者オクトによって討伐された。人々は歓喜し、王宮は勇者たちの凱旋を迎え入れ、壮大な祝賀会が行われた。まさにその場で……
『魔王の専横を許した現王朝に、人を守護する資格なし。これより我々が実力を持って人を導く』
そう宣言し、王宮で殺戮を繰り広げた。王族のほとんどが処刑され、彼らを守護する近衛兵団も空から降り注ぐ星の雨に焼き尽くされたという。
『
言うまでもなく、魔石を利用した武器だ。世界中のあらゆる魔石堂より略奪した石を加工した武器。オクト達はそれを魔王だけではなく、人間に対しても使用した。シャリポやオレが恐れた通りの事態となった。
一晩にして王宮は崩壊し、王都には「勇者王朝」と称される新政権が発足した。
* * *
「この村は、港が近い。新王朝の使者はすぐにやって来ました」
「すぐに? 南の嵐はどうなったんです?」
あの日オクトが奪った魔石の影響で、村の南には暴風雨が停滞し続け、港へ続く街道は寸断されていたはずだ。
「使者がやってくると、ぴたりと止みました。恐らく『
「それで、使者はなんと?」
「大義のためとはいえ魔石を『提供』したことに対する謝礼が渡されました。それがコレです」
村長はテーブルの上にごとりとそれを置いた。
「うげ……」
趣味が悪いにもほどがある。黄金の勇者像。剣を掲げた勇者が民衆を導く姿の彫像だ。勇者の顔はもちろんオクトのものだ。
「そして我々にふたつの事を求めました。ひとつは、新王朝への服従。そしてもうひとつが……」
村長はオレとリョウに交互に顔を向けた。こちらの眼を見据える、まっすぐな視線で。
「新たな魔石を持ってきた者。つまり貴方がたの身柄の拘束です!」
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