異世界学事始め

九十九髪茄子

第一章 ラータ トゥキトマ ヤ?

第1話 異世界には異世界の言語があるわけで……

「ラータ トゥキトマ ヤ?」


 は?


「ポーラ トゥイ ヤ?」


 なんて?


「トゥキトマ ヤ?」


「ガーシュ ラット!」


 英語……ではないよな、間違いなく。中国語や韓国語の雰囲気でもない。全く聞いたことのない言葉だ……


「ガーシュ タラ ラータ?」


「ガーシュ ミヴ!」


 アカンぞ、まったくわからん……もしかして異世界語って奴か??



 この世界に転移してから、およそ一時間後。街道に沿って、ゆるやかの丘を登ると、眼下に小さな村が現れた。


 いかにもファンタジー作品に出てきそうな、中世ヨーロッパ風ののどかな村。

 木の骨組みに支えられた白い土壁の民家が十軒ほど建ち並び、それらの中央には教会のような高い塔を持った石造りの建物がそびえる。

 これこれ、こういうの! 想像してた通りの世界だ!!


 テンションMAXで下り坂を駆け下り、村の入口でついに第一異世界人発見!!




「ポーラ トゥイ ヤ?」



 …………と思ったのに、ご覧のとおりだ。

 槍を持った見張り番らしい二人組にまくしたてられているが、何を言ってるかさっぱりわからん……。



「え、えーと……ワタシ ノ ナマエ スギシロ ゲン イイマス」


 自分の顔を指差しながら、何故かカタコトになった日本語でゆっくり自己紹介する。数秒の沈黙……


「アー ミスクィ タラ タ ラータ ガーシュ パ!!」

「ラノ バクサ タ トゥイ ガーシュ パ!!!」


 だよねぇ……さっぱり通じてないようだ。

 それどころか、何やら殺気立ってきている。手にしている槍の穂先をこちらに向けてきた。



 考えてみれば、ここは異世界だ。日本語なんて通じるはずがない。なんで無条件でこの人達に言葉が通じると思ったんんだオレ?


「あー! くそっ!」


 やり場のない怒りをオレは道に転がっている石にぶつけようと、それを思い切り蹴った。


「痛てえ!!?」


 つま先に鈍痛。転がっていると思った石は、どうやら思っていたよりも大きく、地面に埋まっていて、ほんの少しだけ頭を地上にのぞかせているものだったらしい。


「ハハハッ! ウケル!!」


 つま先を抱えて飛び跳ねるオレを見て門番が笑う。


「は? ウケる? 今アンタ、ウケるって言ったよね!!?」


 なんだよ日本語知ってるじゃん!! オレは門番たちに向き合う。


「アー ミスクィ タララーノ バクサ」

「っなんだよぉっ!!」


 またすぐに始まる異世界語。だめじゃん!!


 異世界に転移できると聞いた時は、ワクワクが止まらなかった。サンプル映像で見た風景は、ゲームやアニメで見たファンタジー世界そのもの。その世界には魔物が跋扈ばっこしていて、それらを率いる魔王が人間の安全を脅かしている。そして、転移者は魔王に立ち向かえる技能スキルを有している。


 ……そう聞いていたのに、これじゃあ魔王討伐以前の問題だ。


 そういう事はちゃんと説明してくれよぉ女神さん!!?



 

 

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