第509話 人手不足?獣手過剰?
「さて……どうするか……」
数時間にわたる協議の結果、無情にもバモスのプレゼンはキャロの心を動かすことなく終了し、俺の出番はお祭りが終わってからという結果に落ち着いた。
肩を落とし去って行くバモスの背中を見送ると、コップに注いだ水を飲み干し椅子に腰を下ろす。
「ギルド……いくぅ?」
首を傾げ俺の顔を覗き込むミア。
答えはわかり切っているのに、一応は聞いておこうというある種のお約束的ニュアンスが含まれているのが丸わかりだ。
そんな質問に、俺は天を見上げながら本音を漏らす。
「行きたくねぇなぁ……」
「だよねぇ……」
俺とミアが同時に溜息をつくと、キャロはキツネにつままれたような顔で首を傾げた。
バモスから仕事を引き受けたのはひとまず良しとしても、問題はその内容。バモスは、新たに結成する捜索隊の指揮を俺に執ってほしいというのである。
当然捜索からの救助となれば、人手は多いほどいいと考えるのが妥当。普通の冒険者であればありがたい話ではあるのだが、俺の場合はそうじゃない。
秘密にしている死霊術のせいで、人がいるほど戦力がダウンするという特異体質。とはいえ、一人の方が制限なく動けるので……とは言い出せず、悩まされるのはいつものこと。
バモスの提案に難色を示し、顔を歪ませ続けることでなんとか引き出した条件は、俺が捜索隊のメンバーを選定できるという権利である。
王宮から腕の立つ騎士を拝借するもよし、街のギルドから協力者を探してもいい。どちらにせよ邪魔なだけだが、当日いきなり知らない人と顔を合わせるよりはマシである。
「ギルドでメンバーを集めて、街を出たら即解散――ってのはどうかな? 冒険者さんはお金が貰えればそれでいいと思うし……」
「うーん……。確かにアリではあるが、バモスさんにバレた時の事を考えるとなぁ……」
「でも、おにーちゃんのこと知ってる人って、ケシュアさんとメリルさんと……。後はエルザさんくらいしかいないよ?」
モフモフ団のメンバーを呼ぶにしても数日で来られるような距離ではない。従って、現状最も有効な選択肢はネクロガルドに頼ること。
「正直頼りたくはないが……ギルドよりはマシか……?」
それを黙って聞いてはいられなかったのだろう。キャロは頬をぷくっと膨らませて異を唱える。
「ひどい! ネクプラの皆はいい人達ばっかりだよ!? ギルドより役に立つもん!」
「あ、いや……そういう意味で言ったわけじゃなくてだな……」
俺のネクプラに対する評価が思ったよりも低かった――。それが許せないといったところか……。
確かに事情を知らなければ、勘違いしてしまうのも仕方ない。
キャロは、ネクロガルドの事を知らない。エルザとケシュアはネクプラの関係者だとしか教えられていないのだ。
「言い方が悪かったな……。能力的な話ではなくて……何と言えばいいか……」
ネクロガルドとは出来るだけ関わり合いになりたくない――と言えれば楽なのだが……。
「ほら、アレだ。俺が出発する日はお祭り最終日の翌日。ネクプラの皆は
「むむむ……言われてみれば確かに……」
難しい顔で考え込むキャロに、俺とミアはなんとか誤魔化せたかとホッとする。
「じゃぁ、ネクプラで
突然顔を上げたかと思えば、キラキラと輝いた視線を俺に向けるキャロ。
随分とギルドを目の敵にしているようだが、思えば孤児院を売ったという過去があるのだ。敵視していても不思議ではないか。
「あ……ありがたい話だが、人手を奪うのは気が引けるなぁ……」
1ミリも思っていない事を口にしつつも、実際ネクプラに俺の事を知っている者がどれだけ存在しているのかは気になるところ。
もちろん
恐らくだが、ネクプラがネクロガルドと繋がっていることすら知らない者が大半なのではないだろうか?
表向きはエンターテイメントファームを語るレジャー施設であり、
「大丈夫だよ。九条にぃには、
何が大丈夫なのか……。
「確かにそうだが、今それは関係なくないか?」
「なんで? メリルさんから聞いたよ? いっぱい従魔を従えられるんでしょ?」
キャロの言う従魔の定義がどの程度なのか……。
とはいえ、それはギルドが勝手に定めたルール。別にギルドに認定を貰わなくとも従魔化は可能だ。
ただ忠実に言うことを聞いてくれる獣の事を従魔と呼ぶのであれば、俺はいくらでも従魔を作れることになってしまう。
そもそもスキルなぞ使う必要がないのだ。ただ手伝ってくれと声を掛け同意してもらうだけでいいのだから。
「言う事を聞いて貰うだけなら、確かに制限はないようなものかもしれないが……。それがどうした?」
「え? だからネクプラで従魔を借りればいいんじゃない?」
「あぁ、そういうことか。だが、従魔は間に合ってるんだ。今は人手の話で……」
「だから! 従魔をレンタルすればいいって言ってるの!」
両手を胸の前で握り締め、マラカスでも振るかのような仕草を見せるキャロ。
そのやきもきした姿は非常に愛らしいのだが、如何せん話が通じず俺は眉間にシワを寄せる事しか出来ない。
「いや、だから人手が……」
そこまで言いかけ、ハッとした。
「……もしかして、従魔も人手に数えているのか?」
「最初からそう言ってるもん!」
恐る恐るの俺に対し、キャロは腕を組み胸を張る。
確かに考えられない話ではない。
グランスロードという極寒の地において、従魔は誰よりも頼りになると言っても過言ではない。まさにベストパートナーと呼ぶに相応しい存在だ。
ここは獣人の国。人族の常識が全てでないことは、様々な国で経験してきた。
従魔がそのまま捜索隊のメンバーとして数えられるのならば、一気に問題は解決である。
「……もっと早く教えてくれよ……」
猫の手も借りたいとは良く言うが、本当に猫の手を借りられるとは……。道理で話が通じない訳である。
「じゃぁ、お手紙にそのことも書いておくね!」
ネクプラが役に立ち余程嬉しかったのか、ウキウキで机に向かうキャロ。
問題は、そのふにゃふにゃの文字が相手に伝わるかどうかなのだが、ひとまずはネクロガルドもギルドも頼らずに済むという結果に、俺はホッと胸を撫でおろした。
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