第13話 滅びのソフィア

惑星専門員で宇宙船の操縦が上手い人であたしの知り合い……。

一人の思い当たる人物が頭をよぎった。


「あっ、そうだ!あいつなら……」


あたしは早速、役所に行った。


「すみません。マスクは今、どこかの任務に行ってるんでしょうか?」

「今は、ガンマ星まで行ってますね。任務を終えて帰還すると連絡が来ているので、もうそろそろ帰ってくると思いますけど……」


受付の女性が答えた。


「分かりました。ありがとうございます」


もうすぐ帰ってくるのか。だったら待っていようか。

しばらく待っていると、一隻の宇宙船が帰ってきた。

中から顔がはっきり見えないように、黒いフードを被った男が宇宙船から降りてきた。


「……あんた、相変わらず不気味ね」

「………………俺に何か用か?」

「あんたに聞きたいことがあって待ってたの」

「………………何だ?」


ほんと相変わらず絡みにくいわね。

本当は絡みたくないけど、でも操縦が上手くなる為だもの。


「宇宙船の操縦が上手くなるコツを教えて欲しいの」

「………………操縦が……上手くなるコツは…………長距離を操縦する事だ。……長い距離を操縦すれば……次第に……慣れてくる……」


なるほど。

長い距離を操縦すればいいのね。


「わかったわ。確かデルタ星に荷物を配達する任務があったわね。丁度良いわ。あれを受けてみるわ。ありがと」


あたしは、そのまま役所でデルタ星行きの任務を受ける事にした。


「はい。では受理しますね。ソフィアさん。チャールズさんから伝言を預かってます」

「伝言?」

「宇宙船の操縦は、くれぐれも気を付けるようにとの事です」


だからその練習の為に行くんだよ。

もう……。皆して操縦下手くそだって言ってくれちゃって……。

絶対上手くなってやるんだから。


あたしは宇宙船に乗って、デルタ星へ出発した。


「安全第一で操縦よ。ゆっくり落ち着いて行けば大丈夫」


自分に言い聞かせて操縦する。

行き道は、簡単だった。


「ふぅ。長旅だったけどデルタ星までは、複雑な地形もないから簡単簡単」


確かに長距離を操縦すると、なんだか宇宙船の感覚が自分の体の一部みたいに感じる。


「これひょっとして、あたし操縦上手くなったんじゃないの?」


なんとなく手応えのようなものを掴めた気がした。

帰り道もこの調子で操縦すれば、少しは成長できるんじゃないかな。

デルタ星宛の荷物を届けて、再び宇宙船に乗り込んだ。


しかしそれは、何の前触れもなく突然起こった。


帰り道、しばらくの間、順調に飛んでいると、操縦席の液晶画面にWARNINGという文字が現れた。


「えっ……。何!?WARNIG!?えっ!?えっ!?ええっと……このボタンを押して……」


【警告。警告。スペースストーム発生。スペースストーム発生。無数の隕石が接近中。至急、安全圏まで退避してください。無数の隕石が接近中。至急、安全圏まで退避してください】


宇宙船内がパトランプの赤色のせいで、真っ赤に染まる。

同時に警報音が船内に鳴り響く。


「ええええ!?スペースストーム!?ど、ど、どうしよう!!……お、落ち着け。落ち着け、あたし。とにかく進路を変えなきゃ!!」


さっき来た方角へUターンして進路を変更しようとした。

その時だった。


隕石のひとつが宇宙船の右側に当たり、エンジン部分を損傷した。


【エンジン損傷。エンジン損傷。至急、どこか安全地帯へ退避してください】

「えええええ!?安全地帯っていってもエンジンがやられたら、どうしようもないじゃない……!!」


あたしは、急いで救難信号を出した。


「CQCQ。こちらソフィア。スペースストームによって宇宙船のエンジン損傷。操縦不能により救助を要請します。……ダメ。無線が通じない」


【コントロール不能。緊急脱出装置を起動してください。船内から至急、離脱してください。緊急脱出装置を起動してください。船内から至急、脱出してください。緊急脱出装置を起動してください。船内から至急、脱出してください】


「ええー!!だ、脱出!?この赤いボタンね。えいっ!」


ブワッ!!

天井のハッチが開き、上には宇宙空間が広がる。

それと同時にあたしが座っていた椅子が、真上に飛び上がる。

あたしは椅子ごと宇宙空間に投げ出された。

そのままパラシュートが開き、ゆっくりと大きな隕石の上に辿り着いた。


「宇宙船が……。さっき無線通じなかったわよね…。ってことは、まさかあたし……このまま誰かが気が付いて助けに来てくれるまで待つしかないの!?」


最悪だ……。

スペースストームの隕石の上で、来るかどうかも分からない助けを待たなければならない。


「なんでこんな事になっちゃったの……。ちょっと操縦が上手くなりたかっただけなのに……」


どうしてこんな事になったのか考えた。

まず滅多に発生する事のないスペースストームに運悪く遭遇してしまった事。

それがよりにもよって、あたしが任務を受けたデルタ星付近で起こった事。

あたしが惑星専門員になったから?


「でもあたしは……ただ彼氏が欲しかっただけなのー!!愛されたかっただけなんだからー!!」


叫んでみるが、当然誰かに聞こえるはずもない。


宇宙船を沈めた数が四十二隻目になっちゃった……。

またチャールズさんに怒られるかな……。


色々な事を考えた。

それからどれくらいの時間が経っただろう。

はっきりとは分からないけど、お腹も空いてきた。

デルタ星で昼食を食べてから結構な時間が経ったって事か。

今、アルファ星は夜かな。


このままじゃ……。

あたし、本当に滅びのソフィアになっちゃう……。


「このまま誰にも気づかれなかったら、あたし……。ここで死ぬのかな…」


不安が一気に襲ってきた。

その間にも、あちこちで隕石が流れてくる。

流れてくる隕石にまたぶつかってしまったら、今度こそ終わりだ。

何もできない。ただ隕石が当たらないように祈るしかなかった。


「神様、どうしてあたしばっかりこんな目に……。恨むわよ!神様の馬鹿!」


大きな隕石と大きな隕石がぶつかったのが見えた。

そして大きな隕石は、小さな隕石となって激しく燃えて流れてきた。


「きゃああああ!!!神様、馬鹿って言ってごめんなさーい!!」


危うく小さな隕石にぶつかる寸前ギリギリのところを横切っていった。

ここにいたらいつ死んでもおかしくない。


「うっ……。ううっ……。ぐすっ……。誰か……助けてっ……」


泣いて助けを求めた。

こんな時、格好良い男の子があたしを助けに来てくれないかな……。


その時だった。

前方から物凄い勢いで何かがこっちに向かって来ているのが見えた。


「えっ……。何あれ……」


それは姿を現した。

戦闘用の宇宙船だった。


「ソフィア。聞こえるか。近づいたら扉を開けるから、宇宙船に飛び移れ」


助けが来た!

誰だか分からないけど、誰かがあたしを助けに来たんだ!!


宇宙船がソフィアの乗っている隕石のところまできた。

宇宙船の入り口が開く。


飛び移ろうとしたソフィアだったが、その時、また隕石が来て妨害されてしまう。


「ダメ……!!別の隕石が邪魔で飛び移れない!!」


ソフィアが叫ぶ。

宇宙船が一旦離れて、再チャレンジを試みる。

しかし無数の隕石が邪魔をする。

そのうちのひとつがソフィアの乗る隕石に当たる。

ソフィアの乗る隕石に火がついて燃えだした。


「大変!!火が……!!」


宇宙船が離れていく。

無数の隕石をアクロバット飛行で回避する宇宙船。

上下逆さまになった宇宙船のハッチが開いた。

中から人が出てきた。


「ソフィア!!掴まれ!!」


一気にソフィアの乗る隕石に近づいて、ソフィアを抱きしめる。

同時に隕石から出た火で、救出してくれた人の黒いフードが燃えた。


「…………ソフィア…………大丈夫か?」


その人物の顔をはっきりとは見た事なかったが、ソフィアは声で分かった。


「マスク……?」

「…………怪我……してないか……?」

「うん……」

「…………そうか。…………ならよかった」


マスクの顔をはっきりと見たのは初めてだったけど、意外と格好良かった。

マスクに抱きしめられて、今まで溜まっていた感情が一気に沸き上がった。


「ううっ……。ううっ……。怖かった……。死ぬかと思った……」


マスクは、無言でそのまま抱きしめてくれた。

そしてマスクは、自分の上着を無言であたしに被せた。

あたしの服が燃えていたからだろう。


「うっ……。ううっ……。ぐすんっ……」


しばらく泣いて、ようやく落ち着いてきた頃。

あたしはマスクに言った。


「どうして……。あたしが遭難してるって分かったの?」

「……スペースストームが……デルタ星付近で発生していると聞いて…………嫌な予感がしたから」

「なんで戦闘用宇宙船なの?」

「…………万が一、スペースストームに巻き込まれていたら……動きやすいのが……戦闘用宇宙船だからだ。……それに速度も速い」


マスクの判断は正しかった。

実際にスペースストームが発生したところでの操縦なら素早く旋回できる戦闘用宇宙船が都合が良い。

あたしを救出するのも戦闘用じゃなければ難しかっただろう。

マスクに命を救われた。


「ありがとう……。本当に……命の恩人だよ……」

「……お前には……借りがあるから……気にするな……」


マスクの顔を改めて見た。

格好良い……。


幼馴染に憧れていたけど、年上ってのも悪くないかも。

あたしはそんな事を心の中で思いながら、アルファ星に帰還した。


今回のあたしの事故は、お咎めなしだった。

チャールズさんもスペースストームなら仕方ないと言ってくれた。


後日、あたしは役所に行った。


「すみません。マスクは任務に出てますか?」

「はい。ベータ星までの任務に出てますね。さっき出たばかりです」

「そうですか。もう少しタイミング良かったらよかったのにな。あの、マスクが帰ってきたらこれを渡して貰えますか?」

「分かりました。お預かりします」


あたしのせいで燃やしてしまったマスクの為に、新しい服を買ってあげた。

それから数日。

マスクが学校の入り口のところで待っていた。

あたしが買ってあげた服を着て。


「…………ソフィア」

「マスク!どうしたの?わざわざ学校まで来て、あたしに用?」

「……服。ありがとう……」

「そういえば、お前には借りがあるからって言ってたけど、借りって何の話?」

「…………白石葉月救出任務で……マグナ紛失の件の……事情を……説明してくれて……助かった」


わざわざお礼を言いに来るなんて、意外と律義な奴ね。


「そんなこと……。別に気にする必要ないわよ。服似合ってる。うん、やっぱりあたしの選んだだけの事はあるわね」

「…………でも俺は……フード付きの方が……。……顔隠せるから」

「どうして顔を隠す必要があるの?別におかしくないじゃない」

「…………色んな…………人に見られて…………恥ずかしいから……ここで待ってる時も……色んな人に……見られた……」


改めて明るいところで見ると、格好良い整った顔をしている。

アイドルみたいだ。

そりゃ見られるわ。


「ねぇ。今度、宇宙船の操縦教えてよ。また今度、一緒に組んで仕事しましょ」

「……ああ。……またよろしく頼む」


あたしの王子様、ついに見つけたかも。

なんだ、意外と近くにいたのかも。


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