第10話 葉月編

あたしは地球を出発した。

地球は青かったっていう宇宙飛行士の言葉があるけど、宇宙船の窓から見る地球は、

本当に青くて綺麗だった。


外国にも行ったことないあたしが宇宙だなんて……。

そんな事考えたこともなかった。


宇宙船の中でソフィアちゃんと色んな話をした。

あたしの事。


ソフィアちゃんの事も色々聞いた。

あたしは、パイロットのマスクさんにも話しかけた。


「マスクさん。この宇宙船、アクロバット飛行とかできるの?」

「……………………戦闘用……じゃない……から……危険」

「戦闘用も運転できるの?」

「……………………できる」


喋るのが苦手だから放っておこうってソフィアちゃんが言った。

結構長旅だったけど、ソフィアちゃんのおかげで楽しく過ごせた。

ソフィアと呼び捨てにできるくらい仲良くなった。


アルファ星に着いた。

アルファ星人っていうのは、見た目は地球の人と変わらなかった。


触手が沢山あるのとか頭がでかいのがいるのかと思ったけど、そういうのとは違った。

あたしは、マリアさんの元に案内された。


マリアさんは綺麗な女性だった。

もしマリアさんが触手沢山の化け物だったらどうしようと思ったけど、違っててよかった。


「初めまして、白石葉月さん。私はマリアです。体は大丈夫ですか?」


でも私は……

マリアさんにいざ会ったら、かなりムカついてきた。

今まで溜まっていたものが爆発した。


「……あたしと繋がってると聞きました。大丈夫かだなんて聞かなくても分かりますよね?」

「……本当にごめんなさい。私があなたにしてしまった事は、とても許されることじゃない」

「今更どうしようもないよ……」

「……地球からアルファ星に向かっていると通信で連絡を受けてから・・・手術の準備も進めておいたから……明日すぐ手術ができるの」

「……そうですか」

「今日は部屋で休んで」


翌日、地球体適応手術を受けた。

一か月かけて手術して、また一か月入院。

マリアさんがアルファ星の果物を持ってきたの。


「甘くて美味しいから食べて」

「そんなよく分からないアルファ星の果物なんて食べない。母親面しないで」


あたしは酷い事を言った。

自分でも分かってるけど、怒りの感情を抑えられなかった。


数日後、マリアさんが林檎を持ってきた。


「林檎。探してきたの。剥くのが下手くそかもしれないけど、置いておくね」


本当に剥くの下手くそだ。

小さい子が初めて剥いたみたい。


よく見るとマリアさんの手には、包帯が巻いてあった。


林檎……。

探してきたって言ってた。

アルファ星では珍しいのかな。


あたしの為に……。

あたしは林檎を食べた。


よく食べてる普通の林檎の味だった。

数日後、あたしはマリアさんに言った。


「……ねぇ。前に持ってきてくれたアルファ星の果物って美味しい?」

「甘くて美味しいわ」

「……なら食べる」

「今度持ってくるわね」


次の日、アルファ星の果物を食べた。

甘くて美味しかった。

しばらく退屈な日々を過ごしてた。


「暇潰しも必要よね。本は読むかしら?女の子だから恋のお話とか好き?文字は自動翻訳機能付きなの」

「……読む」


本を読み終わって感想を言った。

まあまあ面白かった。


「マリアさんのオススメの本あるなら読みたい」


あたしは、初めてマリアさんと言った。


「今度凄くオススメの本持ってくるね」


あたしは、マリアさんのオススメの本を何冊も読んだ。

そこから本の感想を言い合うようになって……

少しずつ話すようになった。

退院後、マリアさんはあたしに提案があると言った。


「ねぇ、学校に通わない?」

「学校?」

「ソフィアさんも通っている学校なんだけど……。病院行く日は、お休み。私が葉月さんの青春奪っちゃったから……」


そっか……。

あたしの青春奪った事、気にしてるんだね……。


「……ソフィアもいるなら……行ってみてもいい」


それで学校に通うことになった。

学校にも触手沢山の化け物は、いなかった。


アルファ星人って思ったより、地球人に近いのかな。

ソフィアが間に入ってくれた事もあって、友達が沢山できた。

メイビスとかローラとか他にもいっぱい。

あたしは、学校の出来事をマリアさんに話すようになった。

なんだか本当にお母さんみたいに聞いてくれる。

ある日、あたしは言った。


「ねぇ、マリアさん。お母さんって呼んでいい?」


なんて言われるか分からなかった。

母親面するななんて酷い事を自分で言っておきながら今更……。


「私も葉月って呼んでもいい?」


マリアさんは、笑顔でそう言ってくれた。

色んなことをして過ごした。


地球では見た事ない食材を使ってマリアさんと料理してみたりもした。

学校では馬鹿な事もやった。


マグナを使ってソフィアとダブル葉月っていうユニットを組んで、学園祭でライブをして歌を披露したり。

他の星にドライブに行った時、滅びのソフィアの餌食になって救難信号を出して迎えに来てもらったり。


あたし、青春してるじゃん。

沢山の思い出ができた。


「葉月。もうすぐ十年だね」


お母さんの言葉で初めて気が付いた。

気が付いたらあっという間に十年経とうとしてた。


「うん……」

「どうしたの?暗い顔して」

「…………もう、お母さんと会えなくなると思うと寂しいなって」

「何言ってるの。帰るって約束してるんだから。地球でこうちゃんもお母さんも待ってるよ」

「……本当に待っててくれるかな?」

「待ってるよ」

「……あたしの事、忘れちゃってないかな?」

「大丈夫だよ」

「怖いの……。色々悪い方に考えちゃって……」

「そっかぁ」

「お母さんもソフィアもメイビスとか学校の友達もいっぱいでさ。こっちでも、凄く大切な人達が沢山出来ちゃった」

「嬉しいな。お母さんも葉月の大切な人の中に入れてくれてるんだね」

「この十年、色んな事を知って勉強して分かったけど、あたしアルファ星で生きていく事もできるよね?アルファ体適合手術を受けて永住権取って……」

「うん。確かにその方法もあるね」

「あたし……地球かアルファ星か……。大切な人達をどっちか選ばなきゃならないなんて……」

「ねぇ。葉月。大切な人とはね。どれだけ離れてても、人と人の気持ちってずっと繋がってるんだよ」

「ほんとかな……?」

「しかもそれはね。強い絆で繋がってるから、大切な人が死んじゃった後も自分の中でずっと生きてるものなの」


その日、初めてあたしは、お母さんの夫であるロイドさんの事を教えてもらった。

今まで照れ隠しして、聞いても全然教えてくれなかったのに。

ロイドさんに戦争中、命を助けてもらったチャールズさん達が……


今度は、あたしの命を助けるために動いてくれたこと。

人と人は、どこかで繋がっていく。


そんな話。


「………………うん」

「よく考えてみて。自分で答えを出して」


その夜は眠れなかった。


アルファ星の人達は、凄くあたしを良くしてくれて。

こんなに暖かい場所なんだって十年かけて知った。


地球かぁ……。

小さい頃、こうちゃんと二人で迷子になった事を思い出した。


もう家に帰れなくなるのかなってすごく怖かった。

そしたらこうちゃんは、あたしに言ってくれた。


「……うちに帰れなくなっても……お前の面倒くらい俺が見てやる。そんな事気にするな」


それで凄く安心した。

その時からあたしは……


こうちゃんの事がずっと……


「………………お、お前の面倒くらい俺が見てやる。そんな事気にすんな」


地球を出発する前、こうちゃんは、また言ってくれた。


「おー?おー?プロポーズー?男だねぇー!」


あたしは、こうちゃんを茶化したけど……

でも本当は、凄く嬉しかったんだ。


安心したんだ。


……あたし、こうちゃんのそばにいたい。


こうちゃんを幸せにしてあげたい。

でも面倒見てやるって言われてもさ。


こうちゃんバカだもん。

こうちゃんには、しっかり者のあたしがついてないと。


幸一って名前なのに、不幸になったらダメだよ。

名前負けだよ。


あたしは、地球に帰る事に決めた。

ついにその日がやってきた。


「ねぇ、葉月」

「何?」

「一番幸せになってね。風邪引かないようにね。……いってらっしゃい」

「いってきます。お母さん、十年間本当にありがとう」


宇宙船に乗り込んだあたしは、窓から見えるアルファ星を見て思った。

アルファ星も綺麗な星だね。

地球と良い勝負だよ。

長い時間の旅は終わり、ついに地球に到着した。


十年ぶりの地球だね。

こうちゃん二十四歳か。


会ったらおっさんになったねって言ってやるんだ。

地球に到着して、入り口が開いた。


こうちゃんがいた。

「ただいま」

なぜか泣いてるこうちゃんが走って来て、あたしを強く抱きしめた。


人と人は、どこかで繋がっていく。

その時、あたしは……


アルファ星のお母さんとロイドさんから教えてもらった、この言葉の大切な意味に気づいたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る