もう一度 君に会いたい
富本アキユ(元Akiyu)
第1話 原因不明の病
「こうちゃーん。帰ろーよー」
「大丈夫だよ。もうちょっと遠くまで行ってみよう」
葉月は帰りたがっていた。
でも俺は、葉月を連れて先に進んだ。
しばらく歩いた。
「ここどこぉー……」
「わかんない」
「おかあさーん……」
「もうちょっと歩いてみよう」
またしばらく歩いた。
やっぱり家に辿り着かない。
「もうこのまま、うちに帰れないのかな……。うっ……ううっ……」
葉月が泣き出した。
………………
あれ……。
俺なんて言ってるんだろう……。
「……ほんと?こうちゃん、ありがとう」
幼い葉月の笑顔が見えた。
朝の日差しが部屋に差し込んでくる。なんか懐かしい夢を見たな。
そういえば小さい頃、葉月と二人で迷子になったんだよな。
あの後、親切なお姉さんが声かけてくれて助けてくれたんだよ。
あったな。そんな事。
制服に着替えて朝飯を食い、支度ができた。
学校に行く為、隣の家に行く。葉月の家だ。
外にいた葉月のお母さんに声をかけた。
「おはよう。おばちゃん」
「おはよう。こうちゃん」
「葉月もう支度できてる?」
「ごめんね。あの子、熱があるから今日は学校休ませるわー」
「そうなんだ。わかったよ」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん。いってきます」
葉月、熱があるのか。いつも元気な葉月が風邪なんて珍しい。
馬鹿は風邪ひかないっていうのにな。
学校に着いた。
教室に入ると、すぐ異変に気付いたクラスメイト達が言う。
「幸一。おはよう。あれ?白石は?」
「あれ?一緒じゃないの?ラブラブカップルが喧嘩でもしたのか?」
「うっせぇ。ラブラブカップルじゃねぇよ。葉月は熱あるから今日休むんだよ」
「マジかぁ。今日は二人のやり取りみれないのかぁ。うちのクラスの名物なのに」
「勝手に名物にするなよ」
俺と葉月が昔から幼馴染で家が隣同士である事は、クラス全員が知っている。
二人で登校しなかった事なんて今までなかったから、からかわれたのだ。
葉月のせいで、クラスの奴らにからかわれたじゃないか。
まあ今日一日寝てたら治るだろう。
そう考えていたが、次の日もその次の日も葉月の熱は下がらなかった。
そんな日がニ週間続いた。
支度して家を出て、葉月の家に行く。
「おはよう。おばちゃん。葉月の具合どうなの?」
「きつい風邪かなと思ったんだけど、大きな病院で診てもらおうと思ってね。そしたら木下大学病院で入院する事になったの」
「ええー!?入院!?大丈夫なの?」
「原因もよく分からないから様子を見ようってことでね」
「ちょっと帰りに葉月のお見舞いに寄ってもいいかな?」
「いいわよ。こうちゃん来てくれたら葉月も喜ぶと思うわ」
おばちゃんからどこの病室か教えてもらい、学校の帰りに寄ることにした。
学校が終わり、葉月の入院している病室に行った。
ドアをノックして入ると、葉月が寝ていた。
「おーい、葉月。元気か?」
俺の姿を見た葉月は、ベッドから起き上がった。
「あー、こうちゃん。おー、もう元気、元気。いやー、入院生活も快適だねぇ」
「ほんとかよ」
「皆が学校で勉強してる間、あたしはのんびり寝てるんだよ。どうだー、羨ましいだろうー」
「まあ思ったより元気だな」
「あれー?心配してきてくれたのー?」
「う、うっせー。お、おばちゃんに様子見てきてって頼まれたんだよ」
「そっかぁー」
「まあゆっくり寝てろよ。あんまり暴れまわるんじゃないぞ」
「暴れないし。学校は?」
「お前と一緒に登校しないから質問攻めだよ」
「あははー、だろうねー。あたしも逆の立場なら聞きまくるもん」
「葉月。お前、道に落ちてる変なもんでも食ったんじゃないのか?」
「食うかい!あたしを何だと思ってんだよ」
「んー、頭の悪い子」
「こうちゃんに言われたくないわ。あたしの方が勉強できて成績良いからね」
「数学は俺の方が上だけどな」
「うっさいなー。あたしは数学全然ダメなんだよ。ってか数学だけで威張るなー」
「俺の勝ち」
「なんでだよ。いや、絶対認めないよ?」
「ははは」
「あはははは」
「……まあ、あんまり長い事いてもお前が寝れないからな。俺帰るわ」
「ええー、もう帰るのー。暇なんだよー。こうちゃん、今度なんか暇つぶし持ってきてよ」
「あー、もう。わかった、わかった。じゃあ俺帰るぞ」
俺はそのまま病室を出た。
葉月の奴、明るく振舞っていたけど、無理してるんじゃないのか。
熱があって下がらないし、医者も原因が分からないって言ってるんだろ。
本当は不安なんじゃないのか……?
熱の出る病気の事とか症状を楽にさせてやる方法は、何かないだろうか。
俺は自分なりに調べてみる事にして、近くにある図書館に向かった。
図書館に着くと、早速調べ始めた。熱の出る病気。
水腎症、排尿痛、髄膜炎菌感染症、伝染性膿痂疹、デング熱、猩紅熱、腎性尿崩症、子宮頚管炎。
やっぱり熱が出る病気って色々あるな。
熱を和らげるには……
温かい飲み物や食べ物で効果がみられる。
ココア、生姜、トマト、にんにく。
ツボを押す事で効果がある場合もある。
首の後ろの方にある左右二つの風池と呼ばれるツボは、熱の症状を和らげる働きがある。
なるほど。ツボ押しか。これは使えそうだな。
今度お見舞いに行った時、無理やり押してやろう。
まあこんなもんだろう。
図書館を出て歩いていたら、肩をコンコンと叩かれた。
振り向くと、同じクラスの男子の阿部がいた。
「よー。幸一じゃん。お前今、図書館から出てきただろ。何調べてたんだよ」
「熱の症状とか和らげる方法とか調べてた」
「葉月ちゃんの為にってか!大切な彼女の為に色々調べてたわけだ。良い奴だなー!お前ってやつは。俺は感動したぞ」
「う、うっせー。お、お前こそ何やってんだよ」
「ちょっと買い物行ってただけだよ。あ、それよりさ。黒い男の不審者の話知ってる?」
「黒い男の不審者?」
「三年生の女子の先輩が黒い服着た怪しい雰囲気の男に、女の子の名前を出されて知らないか?って聞かれたらしいんだよ。それで知らないって答えたらすぐにいなくなったんだ」
「なんだそれは……」
「で、続きがあってな。他のクラスの女子は、警察に追いかけられて逃げてる黒い男を見たらしいんだ。警察に追われてるって事は、何か事件を起こした犯罪者って事だろ」
「そうかもな」
「何やったんだろうな。女の子を探してたって事は、ストーカーかな。ここら辺ってそんな話聞いたことなくて平和な感じなのに珍しいよな」
「まあ警察が追いかけてたなら警察が捕まえるだろ」
「それもそうだな。じゃあ俺も帰るわな。また学校でな、幸一」
「おう、またな」
阿部と別れた後、家の方に向かって歩いていた。
「おい」
後ろから誰かに声をかけられた。
振り向いたら、黒い恰好をした不気味な男の姿があった。
「えっ?」
「………………白石葉月を知ってるか?」
「葉月?」
「………………知っているのか?」
「お前、葉月になんの――」
お前葉月に何の用だと聞こうとしたら、後方から別の声が聞こえた
。
「おい!!そこの男!!」
「………………チッ」
黒い服の男は、舌打ちすると走って逃げていった。
「おい!!待て!!」
その後を警察官が走って追いかけていった。
アイツ……。
さっき阿部が言ってた黒い男の不審者か?
白石葉月を知っているか?
あの男は、確かにそう言った。
聞き間違いではない。
葉月を探しているのか?
一体どうして?何の為に?
その日は、ずっとその事が気になって頭から離れなかった。
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