第21話 BARデート

それから数日が経った。

俺はふと、加奈と夜デートをしてみたいと思った。

オシャレなBARで酒を飲む。たまには、そんな大人っぽいデートをするのもいいんじゃないか。そう思って俺は、加奈にメッセージを送った。


「次の日が休みの日の夜にさ、BARに行ってお酒を飲みに行かない?たまには、夜デートってのもどうかなって思ってさ」

「おー、いいね!!」

「店は俺が調べておくよ」

「うん。楽しみにしてる」

「それじゃ、また」

「うん。またね」


一週間が経った休日前の仕事終わりの日、加奈と待ち合わせた。

俺は、待ち合わせの時間よりも早めに来て待っていた。


「お待たせー。ごめんね。今日に限って仕事が遅くなっちゃってさ」

「うん。いいよ。それは仕方ないよ。それじゃ、行こうか」

「うん」


飲み屋街を歩いていく。


「いやー、やっぱり休みの前の日の夜って、一番テンションが上がるよね」

「そうだよね。この時間が一週間で一番楽しい」

「だよね!!働くようになってから休みの日が本当に大好きになったよ」

「休みの日の為に仕事するようなもんだからね」

「うんうん」

「それで今日は、どこのBARに行くの?」

「BARアルファって店なんだけどね。なんかさ、ほら。あのー、あれだよ。ドラマとかでよくある感じの」

「マスター、いつもの。みたいな?」

「うん。そうそう。そんな感じ。調べてみたら、店内はそんな雰囲気の店だったよ」

「えー!!いいなぁ。そういうBAR一度行ってみたかったんだよね」

「俺もだよ。マスター、いつものって言えるくらい通ってみたい」

「あれって何回くらい行けば通用するんだろうね」

「どうだろうなー。三ヶ月くらい通わないといけないのかな?わかんないけど」


そのまま飲み屋街を歩いていき、BARアルファに到着した。

店内に入ると、そこはジャズの曲が流れている大人の雰囲気が漂う空間だった。

なんだか少し緊張した。


「いらっしゃい」


カウンター席に座る。

だってせっかくこういう雰囲気の店に来たんだから、やっぱりここはカウンター席でしょ。


「何飲もうか?」


二人でメニューを見る。


「じゃあ私、カシスオレンジカクテル」

「俺はスクリュードライバー」


一杯目は、二人共カクテルを注文する。

少し待っていると、色鮮やかなカクテルが運ばれてきた。

ジャズの音楽が流れる中、二人してカクテルを飲む。

まさに大人って感じだ。

そのままカクテルを飲んで加奈とのんびり喋りながら、二杯目を注文する。


「俺はジンバック」

「私はカルーアミルク」


二杯目のカクテルを飲む。


「加奈はさ、職場の飲み会とかないの?」

「私の職場は、お盆と忘年会の時期にやるくらいだね」

「そうなんだ。俺のところは、介護施設だからそういうの全くないんだよね」

「へぇー。友達と飲みに来たりはしないの?」

「焼き肉食べに行ってビール飲むくらいだなぁ。後は居酒屋ばっかりだね。こういう店は初めて来た」

「そうなんだ。私も一次会しか行かないからこういう店来たの初めてだよ」


三杯目を注文する。

ここで俺は、言ってみたかった台詞を言ってみた。


「マスター、ウイスキーをロックで」

「おおー!?ウイスキーのロック!!」

「加奈はウイスキー飲んだことある?」

「ないよ」

「飲んでみる?」

「えー、どうしようかなー。じゃあせっかくの機会だし、私もウイスキーのロック!!」


少し待っていると、二人分のウイスキーが運ばれてきた。

そしてウイスキーを飲むと、加奈の顔がみるみる赤くなってきた。


「加奈、めっちゃ顔赤いよ?」

「えー、そうかなぁ?」

「うん。真っ赤だよ」

「ウイスキーってきついねー」

「そうだね。俺は平気だけど」

「智也君、お酒強いんだねー」

「どうだろう。あんまり飲まないんだけどね」

「智也君、お酒強いんだねー」

「二回目だよ。加奈、酔ってるでしょ」

「酔ってないよ」

「いや、だから顔が赤いんだって。酔ってるよ」

「智也!!私、酔ってないって言ってるでしょ!!」

「ええ!?」

「お前は本当にアニオタで、どうしようもないやつだな。なんか面白い事やれ!!歌ってみろ!!」

「加奈。完全に酔ってるよね」

「歌ってみろ!!」

「めっちゃ口調悪いじゃん!!」

「彼女の前で面白い事をやれ!!そうだ、モノマネだ!!モノマネやれ!!」

「ええー!?」


ウイスキーを飲んだ加奈は、完全に酔っ払い絡んできた。

口調まで変わるし、酒癖が悪い。

こんな加奈、初めてみた。


「ねぇ、智也君。私はどうすればいいのー?」

「な、何が?」

「私はどうすればいいのー?」

「だから何を?」

「どうすればいいのー?」

「と、とりあえず落ち着けばいいと思うよ。すみません、マスター。水下さい」


加奈に水を飲ませる。

それから少し外に出て、風に当たらせた。


「……落ち着いてきた?」

「うーん、ちょっと」

「そろそろ帰ろうか?」

「うん」


加奈も酔っているし、そのまま会計を済ませてBARを出た。

タクシーを拾い、加奈を家まで送っていく。

そして俺もそのままタクシーに乗って、家に帰ってきた。

もう加奈には、ウイスキーを飲ませるのはやめよう。

そう思った。


翌日、加奈からメッセージが届いた。


「頭痛いー。人生初の二日酔い……」

「じゃあ今日は、家で大人しく過ごした方がいいね」

「うん。そうするー」


その日は、久しぶりに俺も家でゆっくりと過ごした。

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