彼女の作り方
富本アキユ(元Akiyu)
第1話 契約
俺は矢口智也。今年で三十一歳になってしまった。
介護職員として働く俺は、職場で彼女の一人もいないのかとおばさん連中に言われ続けている。
確かに年齢的にも彼女の一人くらい作りたいとは思う。
でも俺は、この歳で一度も女の人と付き合ったことなんてない。
彼女は欲しいけど……。一体どうすればいいんだよ。
職場はおばさんばかり。そもそも出会いだってないんだから。
仕事が終わり、家に帰って夕飯を食べて風呂に入った。
ダラダラとテレビを見ていると、スマホからピロリッと通知音が聞こえてきた。
大学時代の友人である横山からだった。
この日曜日、一緒にパチンコを打ちに行かないかという誘いの連絡だった。
またパチンコか。まあ別にいいけどさ。
俺達が住んでるのは田舎だから娯楽なんて都会に比べると少ない。
遠出すると時間もかかるし疲れるから、近場なら大体パチンコかカラオケくらいしかすることがない。横山に返事を返して、その日は疲れていたので、すぐにベッドに入って眠ってしまった。
日曜日になった。
横山とは、いつも午後一時から会うことになっている。
それは横山が休みの日は、午前中はずっと昼まで寝ているからだ。
だらしのない奴だ。
いくら休みの日でも規則正しく起きろよと思う。
まあ人の休みの過ごし方は自由か。
俺がとやかく言う必要はないのだが……。
もう何年もそんな感じなので、会う日さえ決めていれば、時間も待ち合わせ場所も言わなくてもお互い分かっている。
いつもの時間にいつもの場所へ行った。
「よお」
横山は午前中はダラダラ寝てるだらしない感じな癖に、午後一時という待ち合わせ時間には、一度も遅刻したことがない。
むしろ十二時五十分には、すでに着いている。
なぜか待ち合わせ時間は、きっちりと守る男だ。
だらしない奴なのかきっちりとした奴なのか、そこらへんが良く分からない。
「よお、相変わらず早いな」
「俺は約束の時間は、必ず守るタイプだからな」
「それが意外だよな。いつも思う」
「なんでだよ。何事も遅刻は良くないだろ」
「まあな」
いつものパチンコ屋の駐車場から店の入り口へと歩きながら横山が言った。
「じゃあ行くか。今日は作戦を考えてきたんだ」
「へぇ、どんな?」
「甘デジの台で、ある程度玉を増やして、そこから勝負をかける」
「出なかったらどうするんだよ」
「甘デジだぞ。そりゃ出るだろ」
何が作戦だよ。
何度同じセリフを聞いた事か。
何度それで負けてきたことか。
そして店内へと入った。
横山と隣同士で甘デジのパチンコを打ち始めた。
お互い少しずつ当たるが、またすぐに玉がなくなっての繰り返し。
甘デジのパチンコとは、そういうものだ。
小さな当たりが出やすいが、大きな当たりは、ほとんど来ない。
玉がなくなるスピードが緩やかなだけのことだ。
これではジリ貧だと思い、台移動する。
次に移動した台は、ハイリスクハイリターンの台。
当たれば大きいが、なかなか当たらない台だ。
ここで一発当ててやろうという狙いだ。
リーチがかかる。
大当たり期待度が高い演出へと発展し、思わず画面を見つめる。
ピキーンという癖になる音と共に数字が三つそろう。
当たった。
ここまで一万二千円使ったが、ここから巻き返せるか?
横山は近くで打ってるが、どうやら当たっていないようだ。
今日は俺の日かもしれないな。
心の中でそう思いながら打ち続け、玉がどんどん増えていく。
しばらくすると横山がきた。
「お、出てるじゃん。俺は三万負けたわ」
「もうやめるのか?」
「ああ、三万やられたし、これ以上は続ける気にならないからな。三万もやられたらなかなか取り返せないだろ」
「わかった。じゃあ俺も連チャン終わったらやめる」
そして連チャンが終わり、換金するとプラス二万二千円の勝ちになった。
「いやー、ダメだったー。腹減ったし、どっかで飯でも食いに行かね?」
「行くか」
「いやー、ごちそうさまです」
「しょうがないな」
いつもの流れだ。
パチンコ行って勝った方が飯を奢る。
俺が負けて横山が勝った時には奢ってもらってるし、もちろん今回のように俺が奢る時もある。
「何食う?」
「ラーメンでも行くか?」
「お、いいねぇ。ラーメン行こうぜ」
ラーメンに決まって移動した。
「俺は味噌ラーメン大で、白ご飯」
「醤油ラーメン大と白ご飯」
注文して待ってる間は、お決まりのパチンコの反省会だ。
「いやー、あの台を選んだのが失敗だったな。釘も悪くないと思ったんだけどな」
「グラフは悪くなかったのか?」
「グラフは悪かった。逆にな、グラフが悪いからこそ打ったんだ。そろそろ当たるんじゃないかと思ったんだ」
しばらくパチンコの話をしていると注文した二人分のラーメンが運ばれてきた。
味噌ラーメンをすすっていると、ふと頭をよぎった。
そうだ、横山に彼女できないって相談してみようか。
「なあ、横山」
「ん?」
「俺、彼女欲しいんだけどさ」
「作れば?」
「いや、俺今まで一度も彼女できたことないって。ってかお前、知ってるだろ?」
「ああ、そういやそうだったな」
「お前は今、彼女いるのか?」
「いるよ」
「何歳の彼女?」
「七歳年下だな」
「に、二十三歳!?」
「ん?そうだけど?」
「どうやって知り合ったんだよ。出会いとか」
「ナンパだけど?」
横山はそう言うと、またラーメンを食べだした。
「マ、マジかよ……。すげぇな」
しばらく食べていると、今度は横山から話しかけてきた。
「それで?なに?今好きな子でもいるの?」
「いないよ。出会いすらないんだから」
「三十一で彼女いなくて童貞って。お前、魔法使いじゃん」
「仕方ないだろ。今まで出会いとかなかったんだから」
横山の箸を持つ手が止まった。
「ふーん……。で、なんでまた彼女欲しいとか急に思ったわけ?」
「いやー……まあ職場でおばちゃん連中に口を開けば彼女作りなよって言われててさ。俺もちょっと焦りを感じ始めたというか……」
「ふーん……」
「まあ出会いもないんだけどな」
「ふーん……」
「お前、さっきからふーん……って。困ってる友達に何か優しい言葉とかアドバイスのひとつくらいないのかよ」
横山は、少し考える素振りを見せて、何かを思いついてニヤリとした表情で
「じゃあお前が彼女できるまで、俺がアドバイスしてやろうか?出会い方から全部」
「本当か!?」
「ただし条件がある」
「条件?」
「俺に報酬として十万円を支払う事」
「はぁ?金取る気かよ」
「当たり前だろ。俺の今まで培ってきた経験と知識をお前に教えてやろうというんだ。しかも俺の人生の貴重な時間も使ってだぞ。タダでは教えられないな。十万円で彼女ができて人生変わるなら安いだろ。しかもお前は、今日パチンコで二万円勝ってる。今なら実質八万円の出費で済む。格安じゃないか」
「……冗談だろ?」
「いや、冗談じゃないよ。この人生最大のチャンスを生かすも殺すもお前次第だ。さあ今決めろ」
さてどうする。
こいつに相談したのが間違いだったか……?
かといって、俺の友達で一番恋愛相談で頼りになりそうな奴は横山だし……。
十万円か……。
かなり痛い出費になるが……。
こいつの妙な自信、なんか凄いんだよな。いつも思う。
なんか惹きつけられる不思議な魅力があるんだ。
何か変わるなら……。
ええい、考えても仕方ない。
どうにでもなれ。
「わかった。じゃあ頼む」
「お、いいね。男は度胸。いざという時の決断力が大事だ。よく覚えとけ」
ラーメンを食べた後、その足で銀行に行って現金十万円を引き出し、横山に渡した。
「んじゃ、契約成立という事で。まあ次の休みから彼女作り作戦開始ってことで。それじゃ、またな」
横山と別れた。
大丈夫だろうか……。
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