第4話 不幸はまとめてやってくる。
急げぇぇ。アイスがとけるぅぅ。
ダッシュで走り自分の住んでいるアパートに到着。汗だくで喉がカラカラ。
「おやおや、美希ちゃん、急いでるねぇ」
「あ、大家さんこんにちは」
打ち水中の腰の曲がったおばあちゃんが声をかけてきた。
「美希ちゃんや。落ち着いたら私の部屋に来てくれんかのぉ。ちと話があるんだよぉ」
「はい。わっかりましたぁ」
お辞儀をして二階の自分の部屋に向かう。ボロボロの今にも壊れそうな階段を慎重に登り部屋に到着。玄関を開けると——
「おっふ。あっつ」
予想通り部屋は暑い。六畳のボロボロ畳の部屋。熱のこもり具合も半端ない。冷蔵庫と冷凍庫にいちごに貰った食料を入れ、急いで窓を開ける。
「パパ、ママ、ただいまぁ」
私の手作りの小さい台に置いている両親の位牌に挨拶。
「窓かったっ。おりゃ」
築五十年のアパート。窓を開けるのもひと苦労。
「次はせんぷーきー、スイッチオーン」
大家さんから貰った年季のはいった扇風機。足の親指でボタンを押す。
そして冷蔵庫からコップと
「お〜。コップがキンキンだぁ。水を入れて……ゴキュゴキュ……ぷはぁぁ。生き返るぅぅぅ。」
ヤカンは冷蔵庫、コップは流し台へ。
「うーん。大家さんの話ってなんだろ? このままで行くのはまずいかなぁ? 体洗ってさっぱりするかな。また汗かきそうだけど……」
玄関の鍵を閉め、それからボロボロのカーテンを閉めた。汗でぐしょりの体操着と下着を苦戦しながら全部脱いだ。そして流し台の近くに立てかけている大きいタライを床においた。
タライの中に入り、流し台にある片手で持てる小さな象さんのじょうろに水道水を入れ体にかけた。——うにゅ、ちめたい。
そして流し台にある石鹸を少し濡らして、手でゴシゴシと泡立てる。それで体全体を洗う。
う〜。相変わらず未発達な体だぁ。膨らみが全くないよぉ。大きくなぁれ。
と毎回体を洗いながら考える。そして象さんのじょうろで何度か水を足しながら体を流す。
一旦タオルで体ふきふき。タライから出て溜まっている水を捨て流し台に立てかける。
そして裸のまま流し台に設置している瞬間湯沸かし器で頭を洗う。十年以上使っている。頭は水だと風邪をひきそうなので、ぬるいお湯を使っている。
洗い終わり頭をタオルでゴシゴシ。夏はドライヤーいらず。節約節約ぅ。
おパンツをはき、ショートパンツとタンクトップを着て終わりっと。ブラはいつもしない。してもかわらないからね。
うんさっぱりした。大家さんの部屋に行こうかな。
部屋を出て大家さんの部屋へ——
◇◆◇
大家さんの部屋はエアコンが効いて涼しい。そして冷たい麦茶とクッキーを出してくれた。
パクパク、ゴキュゴキュ。おいちい。
「美希ちゃん。わたしゃね、一週間後に施設に入るんだよ。だから申し訳ないけど、美希ちゃんもココを出て行ってもらうことなるんだよねぇ」
「——えっ⁉︎」
「突然でごめんねぇ。ここも老朽化で取り壊しが決まってねぇ。修理代がねぇ。ホントに申し訳ないねぇ」
「い、いえ、分かりました」
大家さんには両親が生きている時からご飯を貰ったりといろいろお世話になった。困らせる事は出来ない。
「美希ちゃんは何処かに行く当ては有るのかい?」
行く当てはないけど……
「はい、大丈夫です」
大家さんには心配はかけられない。
「そうかい。良かった良かった」
——トルルルル〜。トルルルル〜。
大家さんの部屋の固定電話が鳴った。
『どっこいしょ』と言いながら大家さんは立ち上がり受話器を取った。
「はい、もしもし、はい、今ちょうどココにいますよぉ。美希ちゃん電話だよ」
私の部屋に電話はない。携帯電話も持っていない。大家さんの電話を私の連絡先にしている。
「はい代わりました。美希ですけど——」
電話の相手はバイト先の居酒屋経営者の店長。
『美希ちゃん。すまねぇ。さっき田舎の親父が田んぼで草刈り中にコケて怪我したって電話があってなぁ。しばらく田舎に帰ることになったんだよ』
「えっ⁉︎ いつ帰ってくるんですか?」
『それがなぁ。一ヶ月は帰ってこないと思うんだよ。もしかしたら店をたたんで田舎に帰るかもしれない。
だから悪いけど美希ちゃんは解雇になるんだけど……。申し訳ない』
「いえ……大変ですね。私の事は気にしないでください。今までありがとうございました」
そして通話を終わった。
「どうしたんだい?」
「バイト先の経営者さんのお父さんが怪我したので田舎に帰ると……」
「おやおや。大変だねぇ。美希ちゃんはどうなるんだい?」
「私は解雇になりました」
「……そうかい」
給料は日払いなのでもらい残しはないけど……。
「……私、部屋に戻りますね……」
大家さんの部屋から自分の部屋に戻った。
◇◆◇
私は壁を背に座り、扇風機を浴びながらボーとしている。
……どうしよう。何処にも頼るところがない。親戚には生まれてからあった事はない。友達もいない。
お金は……両親の保険金が少し有るけど……それを使ったら私は頼れるものがなくなる。……今は使えない。
昔、生活保護相談機関に行ったら親の保険金があるからダメって言われた。受け付けの人が超絶冷たいおばさんだった。話を全然聞いてくれなかった……。もう行きたくない。
一週間後……私は……ホームレスになるのかな……。
涙が溢れて止まらない。今まで我慢してきたからその反動が大きい。
……誰か助けて……私一人じゃ……無理だよ……。
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