第846話 領地から公都へ

 誕生日会が終わったことで、店の売り上げを既定の金額払って帰って行く商人たち。今回は、領民だけが祭りに参加できることになっていたので、それほどの収益にはなっていない。

 来年、病がおさまっていたら、領地外からもお客を招こうと意気込む領民たちの逞しさに思わず笑っていると、ジョージアいつの間に側に来ていた。



「俺、思うんだけど……」

「何でしょうか?」

「アンバー領って、こんなに商魂逞しい領地じゃなかったと思うんだ」

「そうでしたか?みなが、上を見上げていましたよ?」

「……それは、アンナの影響じゃないかな?アンナが、この領地にもたらしたもの……やはり大きいね。農業とか物とか人をアンバー領にたくさん取り入れてくれたけどさ」

「はい、それが?」

「1番、アンナが息づいているなって思うのは、気持ちだよね。折れてしまった心でも、上を向かせ、昨日より今日、今日より明日、明日よりって、夢を見せるって言うか……現実にうまくいくっていうか、領民一人一人がとても逞しくなっているんだと思うんだ。俺が知っている領地って、俯いていたり、目が死んでたり……今は、あの頃とぜんぜん違う。みなの笑顔が、今日見ていて、やはり眩しいね!」

「一人でも多く、笑ってくれる人がいればいいと思い、みなに手を貸してもらってきましたが、それが少しでもかなっているなら、私がすごいのではなく、私を手伝ってくれているみんなのおかげですし、領民一人一人が、努力をしよう、頑張ってみようという心を持ってくれたからです。私一人でできるものでもありませんし、ジョージア様もその内の一人ですよ?」



 なら、嬉しいよと優しく微笑んだ。



「そういえば、麦の種まきがもう少ししたらって聞いているけど、どうするんだい?」

「今年は、参加できそうにありませんね。始まりの夜会が、いつもより早いんです。たぶん、夏前に備えてって形なのでしょうけど……」

「公が、アンナを侍るには、始まりの夜会を早めるしかないからなぁ……こんなに前倒しにするということは、何か悪いことが起きている……そう考えておいてもいいのかもしれないね」

「そうですね。ただ、移動するにも、今年はウィルがいないので、少し心配です」

「……ウィルね。どうしているんだろう?」

「まだ、最前線でいると先日の手紙には」

「帰ってこれるの?」

「始まりの夜会には無理だと思います。いつ仕掛けられるか、わかったものじゃないですから」



 最南端にいるウィルを想う。他にも最西にも部隊が配置されているらしく、インゼロ帝国に睨みをきかせているらしい。

 それにどれほどの効果があるのかという人も多いが、名の知れたものがいることは、士気にも関わることもあるし、ウィルは近衛では、かなりの人気者。爵位持ちであるにも関わらず、子爵家三男だったことで、かなり気さくな存在に、上からも可愛がられ、下からは慕われている。長期に渡り、私の側にいるにも関わらず、部隊持ちというのがその証拠だろう。今は、大隊長だとかいっていたが、そのほとんどは、今、アンバー領にいる。残りが公都でウィルの帰りを待っているのだが、今回、志願者にヨハンの薬を分け与え、防衛軍備を整えていると聞いていた。



「何事もなければいいんですけどね……こればかりは、あちら次第ですから」

「新しい侍女は、その……」

「皇帝直属の戦争屋の子ですよ。デリアがいてくれれば、いいんですけど、背に腹はかえられません。夜会のときは、ジョージア様の警護につけますね」

「えっ?あの子も夜会に?」

「連れていきます。ドレスを着せて。実は、ここに来る前に、公に何度か小さな夜会を開いてもらっていて、ヒーナのこと広めていたんです」

「広めたね……俺の愛人とか言わないよね?」

「私の愛妾にでもしておきますか?」

「……命が欲しいので、お願いだからそれは……やめて。それなら、俺のでいい。まだ、侮蔑の目で見られる方がいくらか」

「誰にです?」

「……ナタリーにだよ!」

「ナタリーですか?事情は知っていますから、大丈夫だと思いますけど。今回も、ドレスを新調してくれましたし」

「……そういうことじゃないんだ。アンナの愛妾はダメ。もちろん、愛人も同じだから。設定だとしてもダメだよ?アンナの何かっていうのに異常反応するから!」



 そんなことないのに……ブツブツ呟いていると、絶対ダメ!とジョージアが口を尖らせる。



「お義母の遠縁ってことならいいですか?お義母様に許可はとらないといけませんけど……」

「それなら、俺が取っておくよ!母方の遠縁ってなると、かなり遠くまでいるからね。家の名前を言わなければいいだろう」



 ジョージアが請け負ってくれたので、私たちは、公都へ出発する準備に取り掛かる。子どもたちもいるので、いつもより長い時間をかけて戻らないといけない。

 今回は、義両親も一緒に公都へ向かうことになっているので、大移動となる。病が公国の南部だけとなった今、今回もたくさんの貴族が集まるだろう。


 今回、領地出発前にイチアから言われた使命を胸に、公都に向け馬車は走り始めた。

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